第27話:賢者はわからせを実行する

 突如現れた謎の少女。

 しかし、見た目からして普通ではないうえに、その言動から察するにあのエルフ耳の仲間なのだろう。


 エルフ耳や三人娘の様子を上空から見下ろしているその様子は、傍から見れば生意気そうな子供のように思える。


「……強いな」


 しかし、『遠視』越しにその少女が秘めるエネルギーを視てみれば、そのような態度をとることにも納得がいく。

 桁違いなのだ、彼女のエネルギー量が。


 例えを出すのであれば、エルフ耳がコップ一杯に対して、あの少女はプールのそれ。

 あのエネルギーが彼ら彼女らの強さにどれほど影響を与えるのかはわからないが、全く影響がないわけではないのだろう。


『どうしてって、あなたが音沙汰ないからこのあたしが来たんじゃない。まったく、余計な仕事を増やすところなんかまさにプリッツよねぇ~。ほら、感謝の印にワンッて鳴いてひっくり返ったら許してあげるわよ♪』


『っ……だから帰りたくなかったんだ』


 悔しそうに呟いたエルフ耳の小さな言葉でさえ、『収音』で聞こえてしまう。

 目で殺しそうなほどのエルフ耳。だが、そんな彼の様子さえ彼女にとっては遊びなのか、全く気にする様子もなくにやけ面を向けていた。


『ま、いいわ。よっと♬』


 そんな声とともにエルフ耳と三人娘の間に降り立ったアンフェと呼ばれた少女。

 着地とともに三人娘のほうを見やると、へぇ、と興味深そうな声を上げた。


『それで、プリッツ。この達がキング様が言ってた宝石の騎士ジュエルナイトってやつ?』


『チッ、そうだよ……』


『ふーん……それなり程度にはやれそうだけど、まだまだね! こんなのに負けそうになってるなんて、やっぱりプリッツはプリッツだわ♪ あたしたちの中でも最弱とはいえ、恥ずかしくないのぉ~♬』


 くっ……! と悔しそうな表情のエルフ耳。

 そんな彼の周りを煽るように彼方此方とうろつく少女。

 しかし、そんなやり取りをいつまでも見ているわけにもいかなかったのか、三人娘の中でも青いの……青旗少女が一歩前に出た。


『どうでもいい話なら別でやってちょうだい。突然入ってきてうるさいわよ。痛い目を見たくないなら、この世界とアルトバルトの世界から出ていきなさい!』


『ん? あ~アルトバルトちゃんだ♪ やっほー♬ 元気にしてたかな? 急に妖精郷フェアリーガーデンからいなくなってたから心配してたけど、こんな世界ところにいたんだね♪』


 青旗少女が申し出るも、それに全く取り合わず、挙句彼女はその後ろにいたハムスターモドキ……アルちゃんと呼ばれていた謎生物に向けて呑気に手を振っていた。

 だが、その手を振られている本人(?)はハムスターのような顔を忌々し気に崩している。


『……馬鹿にしているのかしら?』


『え? なんであんた程度のを気にかけないとだめなの?』


『……そう。なら、その生意気な顔に叩き込んであげる!!』


 槍を構えて一足飛びに駆けた青旗少女。

 他二人が呼び止めようと名を呼ぶが、それも聞かずに槍を一気に突き出した。


 かなりの勢いに乗せた一突き。あの宝石による強化も相まって、下手な相手であれば容易く貫いてしまう威力のはずだ。


 つまり


『ほら、だから言ったでしょ?』

『うそっ……!?』


 槍先を摘まんで攻撃を止めた彼女は、そんな相手ではないということなのだ。


『そーれっ♪』

『くっ……!』


 摘まみ取った槍先を振りかぶり、そして投げ捨てる少女。

 槍を手にしたままであった青旗少女は、槍とともに赤園や白神のところまで投げ飛ばされてしまった。


『うーん……もうちょっと手ごたえが欲しいから、また頑張って挑戦してね♪』


 挑発するように言う彼女は、悔しそうな青旗少女の顔も見ることなく後ろを振り返った。


『さ、帰るわよプリッツ。あんたがちゃんと帰ってきてれば、あたしが来ることなんかなかったんだから。もっとも、あんたが帰ったところで、なっさけな~い報告しかできないだろうけどね♪』


『……』


 再びエルフ耳に向かって煽る少女であったが、ただ黙るだけのエルフ耳を見てつまらなさそうな様子。

 そのままその場の空間に指を走らせると、エネルギーを発する文字が現れる。魔方陣だろう。

 宙に書かれた文字はすぐさま発光し、そして何かの渦のようなものが出現。そしてエルフ耳は躊躇いもなくその中へと入っていった。


「解析は……無理だな。そもそも、文字が読めん」


 俺の知る異世界言語でも日本でもない文字。解読しないことには使えないだろう。

 見たところ、空間同士をつなぐゲートのようなものなのだろうか。


 確保した後の利用価値がさらに増えるというものだ。


『あ、そうそう。一つ聞いておきたいんだけど、街の術式ってアルトバルトちゃんのやつ?』


『……何の話アルか』


 ……待って?


『ふーん……そっか。こんなすごい結界使えるからもしかしてって思ったけど、違うのね♪ なら楽しみが増えたわ!』


 それじゃーねー♪ と自身もその渦のゲートの中へと入っていく少女。

 三人娘とアルトバルトと呼ばれていたハムスターモドキは、その意味をよくは理解できずに首を傾げているばかりだった。


「……これ、まずいのでは?」


 そんな三人娘たちの反応とは対照的に、俺は一人頭を抱えた。

 つまるところ、あのアンフェと名乗った少女には街中に設置した陣のことがバレているということだろう。

 そしてもっとまずいのは、たった今その存在をあの三人娘とハムスターモドキに示唆されてしまったことだ。


「まずいぞ……どうする、事が収まるまでは街と学校の魔方陣を解除しておくか? 面倒なだけでまた設置すればいいだけの話だしな……」


 その分、解除期間が長ければ長いほど魔力の収集作業が滞ってしまうのだが、存在がバレてしまうよりかはマシだろう。


 なに、魔力についてはまた集めればいいだけの話。それに、それ以上の魔力源にも当てはある。今は少し我慢すればいいだけだ。


「……だから、ちょっと協力してもらうぞ、お嬢さん。なに、そのエネルギー全部よこしてくれればいい」


「ええ~、覗き見が趣味の変態お兄さんこわ~い♪ アンフェ、ちょっと楽しくなってきちゃった♪」


 隠蔽の陣とフードの固定の陣が作用していることをこっそりと確認し、杖を背後へと向ける。

 そこにいたのは、つい先ほどまだ遠視で見ていた少女。

 盛大にやらかしてくれた、俺にとっての目の上のたんこぶである。


「きゃはっ♪ もうさっきからずぅーっとみてたでしょ? アンフェ、そんなに熱い目を向けられてたからすっごく気になってたの♪」


 特にぃ、強い人からの視線だったから! と自身の両手を頬に当てて体をくねらせる少女アンフェ。心なしか顔を赤らめて上気しているようにも見える。


「アンフェ、今ものすごく興奮してるの! がっかりさせないでね? 変態お兄さん♪」


「抜かせ。返り討ちにあって、泣きっ面晒すことになるかもだぞ?」

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