第23話:誤魔化したい賢者と三人娘
さて、白神が中等部の先輩とやらを同好会へ招きたいと言ってから数日後。
ちょうど昨日の活動で白神から明日……つまり本日招待することを伝えられた。
本やペンダントなどのアイテムを含めた魔法関連のものは昨日のうちにすべて部屋から取り除いたり寮の部屋に置いたりしたため、同好会の部屋は他の空き教室と何ら変わらない見た目になってしまっている。
一応魔力視で魔法の痕跡が残っていないかどうかの確認もしているため抜かりはない。旧校舎付近に設置していた人払いの陣も解除しているため、気づかれることはないはずだ。
あのハムスターモドキが俺すら超える魔法の使い手でなければの話だが。
俺でさえ気づけない痕跡があればもうお手上げである。
「まあ、その時のことはまたあとで考えるか……」
田森に放課後遊ぶかどうかを誘われたが、用事があるからと断りを入れて一足先に旧校舎へと向かった。本日の休み時間中に高等部まで来た白神から、招待したい先輩を連れていくためいつもより遅れると休み時間に連絡があったのだ。
「……今どきの女子中学生って、いったい何を食べるのだろうか」
異世界召喚の前であれば、安くて量の食べられるものを好んで食べていた俺なのだが、いかんせん今回は女子中学生が相手。若い女の子がどんなお菓子が好きかなんてわかるわけがない。
そんなこんなで、まあクッキー系のお菓子が嫌いな女の子はそんなにいないはずだろうという判断のもと、そこらの店で数種類買ってきたのだが……大丈夫だよな?
望み薄ではあるだろうが、お菓子に目が眩んで和気藹々と団欒した後平穏無事に帰ってくれないだろうか。
帰ってくれない? そうかぁー。
「とりあえず、準備はできた。あとは対面してちょっと話せばそれで終わり! に、なったらいいなぁ……なんだろう、生徒会の子とかよく知らないけどめちゃくちゃ話聞かれそうで怖いんだが」
特にこの同好会について。
向こうに意味の分からんハムスターモドキがついてる以上、暗示やらなんやらの魔法は基本的に使えないと考えたほうがいいだろう。
となると、俺はこの先に待ち受ける困難を舌先三寸で乗り切らなければならないわけだ。それも魔法を使わずに。
「……まあ、なるようになるしかないか」
考えたところで仕方のない問題であろう。
すでに魔方陣やらなんやらはすべて取り払ってはいるが、それでも音の響く旧校舎。
耳を澄ませば、教室の外、廊下の向こう側から少女たちの話声が響いてくる。
ついに来たか、と俺はいつもの席に着き来る少女たちを待ち構えるのだった。
◇
「そういえば、夕ちゃんって何の部活に入ってるの? やっぱり、オカルト研究部?」
つい先日、偶然にも私や舞ちゃんと同じ
相変わらずこっそりと学校へついてきているアルちゃんや舞ちゃんを交えて屋上で昼食をとっていた私たち。
そんな中、ふと私は気になっていたことを夕ちゃんに尋ねたのだった。
「あ、いえ。実はそこには入部していないんです、私」
「え! 意外~! 夕ちゃんってオカルト好きだから、絶対入ってると思ってた!」
お昼時で眠たいのか、寝こけているアルちゃんの頬を突きながら聞いてみる。
一緒に行動するようになってから知ったことなんだけど、夕ちゃんはかなりのオカルトマニアだったのだ。
UFOやUMA、あるいは黒魔術のような、そういう話題になるとすごく元気よく解説してくれる姿はとっても印象的。
アルちゃんを初めて見たときはそれはもう大喜び! 未確認生物やらなんやらと、年頃の乙女がしていい顔ではなかったことは、本人も恥ずかしがっていた。
そんな夕ちゃんがオカルト研究部に入っていないなんて、ちょっと驚きだ。
「てことは帰宅部なの? もったいないよ~。乙女の青春なんてあっという間なんだから!」
「帰宅部のねねが言っても説得力ないわよ……」
「えへへ」
呆れたようにため息をつく舞ちゃんは、そういって卵焼きを食べようとするのだが、その卵焼き、私がもらったぁ~!
「あむっ!」
「ちょっと!? ねね! なんで食べるのよ!」
「ねねさんと舞さんって、本当に仲がいいんですね……うらやましいなぁ」
「そうでしょそうでしょ!! でも、これからは夕ちゃんだって一緒の仲間なんだから!」
少しうらやましそうにこちらを見ていた夕ちゃんに向かってハグすれば、彼女は少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにはにかんでいた。
「あれ? でも、夕ちゃんって放課後部活に行ってなかったっけ? あれは?」
「あ、オカルト研究部には入ってないんですけど、同好会には入ってるんですよ」
「同好会?」
夕ちゃんの言葉に、舞ちゃんが首を傾げる。
「はい。津江野先輩……今の同好会の会長さんと私の二人だけの同好会なんですけど、黒魔法研究同好会っていうところに入ってるんですよ」
「同好会? 舞ちゃん、この学園って部活以外にそんなのがあるの?」
疑問に思って舞ちゃんに聞いてみる。
「割と多いわよ? 部活動として認められる条件が確か部員が5名と顧問の確保だから、把握できてない同好会も結構あるわね」
「へぇ~そうなんだぁ。それで、夕ちゃんはその黒魔法研究同好会? ってところに入ってるんだね」
去年部活動紹介には参加したけど、結局放課後の時間も減っちゃうからってどこにも入らなかったんだっけ。
高校生になったらまた考えてみるのもありかもしれない。
「でも変ね……」
「? どうしたの舞ちゃん」
「確か同好会は正規の部活ではないから活動拠点……部室はもらえないはずなのよ。だから勝手に同好会を名乗って学校のあちこちで活動している同好会を把握できないのだけれど……夕が入ってる同好会はその拠点があるのよね?」
「聞いた話だと、去年の生徒会長さんに条件付きで貸し出してもらえたそうですよ?」
ちょうど食事を終えた夕ちゃんが、舞ちゃんの疑問に答えた。
なんでも夕ちゃんの同好会の唯一の会員である津江野先輩がそう言っていたらしい。
どんな人なのか聞いてみると、夕ちゃんはどこか嬉しそうな様子でその先輩について話してくれた。
なんでも、黒魔法研究同好会を立ち上げた本人で去年高等部に入学してきた外部生らしい。旧館の一室でいつも黒魔法に関する本を読んでいるのだとか。
なんでだろう、黒魔法って聞くと大きな鍋の前で笑っている怪しい人のイメージしか湧いてこない……
「それに先輩ってすごいんですよ! 私も見たことがないような文字も読めるし……あとあと! 私のオカルト話も嫌な顔せず聞いてくれるんですよ!」
「そうなんだぁ~。そういえば、旧館なんてあったね。今まで忘れてたよ~」
「……ん? ちょっと待って。夕、その先輩は高等部から入学した外部生なのよね?」
ちょうど食べ終えていた舞ちゃんが何かに気付いたのか、改めて夕ちゃんに確認を取るように問いかける。
「え、あ、はい。そう聞いてますよ?」
「だとしたら変ね」
「何が変なの? 舞ちゃん」
「去年の生徒会長は中等部からの内部生なのよ。そんな人に、去年入学したばかりの人が条件付きでも部室を認めるのは無理があるわ」
「すっごく頼み込んだ、とかじゃないの?」
「仮にそれで認められるなら、今頃うちの学校部室が足りなくなるわ。今でも毎日のように拠点が欲しいという同好会も多いのよ。そんな中でわざわざ例外を作る意味が分からないわ……」
これは問いただす必要がありそうね……、と舞ちゃんが呟く。
よくわからないけど、舞ちゃんがそういうのであればそうなのかもしれない。生徒会に入っているからこそそう考えられるのかもだ。
「あうぅぅ……わ、私はいったいどちらの味方をすれば……」
そんな中で涙目の夕ちゃんを見て食べるご飯は、とても可愛くておいしかったです! まる!
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