第22話:賢者は対処方法を募集したい

 ここ数日で考えるべきことがめちゃくちゃに増えた。具体的に言えば、これまでの異世界への移動方法の模索に加えて、こちら側の世界で起こっている少女たちと青年の戦い。そしてその原因であると考えられるハムスターモドキ。


 まさかこちら側の世界であんなことが起こっているとは考えていなかっただけに、実際に目撃した時の衝撃は相当なものだった。

 そして少女たちが俺よりも年下の一般人であることにも驚きを隠せない。


 白神を含めた少女たちがなぜ戦っているのかはわからない。しかし、協力的であることには変わりないのだろう。でなければ、いくら力があったところであのような危険な戦いに身を投じることはないはずだ。


「……無理に、という話であればやめさせるんだがな」


 あちらの世界でとはいえ、元英雄と呼ばれた者からすれば一般人が戦いに参加していることには否定的にならざるを得ない。

 だが、もともと俺だって一般人だったし、自分で納得したうえで戦うことにしたため、彼女たちもそう決めたのであれば仕方のない話であろう。


 となれば、だ。できるだけサポートしてやるのが先達としてやるべきことだろう。戦いに身を投じている以上、命の危険もありうるのだ。それを防ぐことくらいはできる。

 もちろん、姿や正体を見せるつもりはさらさらない。

 彼女たちに害がないとはいえ、あの意味の分からないハムスターモドキの真意がつかめないのだ。彼女らを利用して何か企んでいた場合、俺が抑止力となれるはずだ。


「……念のため、鍛えなおすかぁ」


「あ、先輩! こんにちは!」


 前衛を任せられるフィンやガリアンがいないため、ある程度動けるように鍛える時間も必要だろうと、そんなことを考えていると授業が終わったのか白神が部屋へとやってきた。


 どうやら、今日は平和な一日を過ごしているようだ。


「おう、来たか。一応言っておくが、ここ同好会だから毎日来る必要はないからな? 友達と遊びに行ったり、用事ですぐ帰るときは連絡なしで来ないってのもいいんだぞ」


「あ、はい! わかりました! でも、私ここであの本棚の本読むの好きなんで大丈夫ですよ。それに……」


「……? それに?」


「先輩に教えてもらったりするのが楽しいので……ほら、私の趣味って理解してくれる人がなかなかいなかったので」


 だから先輩と話をするのが楽しいんです、と彼女はそう言ってはにかんだ。

 ……確かに、こりゃそこらの男子には人気が出るわな。


「そうか……まあ、そういうことなら好きにしたらいい。基本俺は毎日ここにいるからな」


 そう言ってやれば、彼女は嬉しそうにはい! と頷き、いつもの定位置に鞄を置いて本棚から彼女が読み進めている本を手に取った。


 なんやかんやでもう一か月以上ここに通っているのだ。まだ一冊ではあるが、教えられながらとはいえ全く知らない言語の本を半分以上読めるようになっているのはすごいとしか言えないだろう。最近は俺に聞きに来る回数も減っているため、解読も進んでいると見える。好きこそものの上手なれとはこういうことを言うのだろうか。


 一応、白神が読んでいるのはあちらの世界における魔法の説明書のようなものだ。まあ説明書とは言っても、向こうでは一般的なことしか書かれていない入門書のようなものだ。

 それに例え読めても、魔法への理解が浅い白神には扱うことはできないものであるため問題はない。


 あれを読めるようになったら、次は何の本を渡すか……念のため全く別ジャンルの本でも渡そうか。魔物についての図鑑とかいいかもしれない。UMAとか好きなら、魔物も似たようなものだろう。


「あ、先輩! ちょっと聞いてもいいですか?」


「ん? なんだ、また読めない文字か?」


 次に白神に進める本について考えていると、何かを思い出したのか白神が本から視線を上げた。

 質問なのかと聞いてみればそうではないらしい。


「えっとですね、最近仲良くなった先輩……中等部の先輩方がいるんですけど、私が入っているここの同好会の話をしたらすごく興味を持ったらしくて……今度ここの部屋に呼んでもいいですか?」


 何してくれとんねんお前


 とは流石に面と向かって言えないのだが、それでもきっと俺の顔は引きつっていたことだろう。

 は? いや、待て待て待てちょっと待て。

 君の言う最近仲良くなった中等部の先輩ってあれだろ? この間戦っていた赤と青の二人のことだろ?

 え、何してくれてんの? 


「……そうか、ちなみにどんな話をしたんだ?」


「え? えっと……ここにある本の話とか、ですかね。あ! あとは一人は生徒会に所属している人なんですけど、同好会が旧校舎にあるって話にも興味を持たれていました!」


「アウトだよこんちきしょう……」


「へ?」


「……いや、何でもない」


 思わず口から漏れた文句をごまかすように俺は無造作に本棚から一冊を取り出した。

 適当なページを開きながら頭の中でどうするかを考える。


 おそらくだが、その生徒会の子とやらはここの存在を怪しんでる感じか? 暗示をかけたのは去年の話であるため、今年から生徒会に入った子には効果がなかったのだろう。

 いやでもまさか、そんなピンポイントでこうなるとか思わないじゃん。


 どうする……ここで断ることもできるとは思うが、万が一にも違和感を持たれた場合、そこから一気に俺の素性について怪しまれることになるだろう。

 だがしかし、許可を出した場合でも俺は同じ。

 あのハムスターモドキがいる可能性が高い以上、部屋の本は非難させることは確定だろう。貴重なものだし、同好会ではない人が来るから非難させるといえば白神を納得はさせられるはずだ。


 だがしかし、部屋についてはどうするか……原則、この学校は部活でない限り部屋をもらえないのだが、当時の俺は生徒会に暗示をかけてそこを解決。無理やり旧校舎の一室を使用する許可を得ている。


 その子にも暗示をかければいい話なのだが、そうした場合のリスクが計り知れないためそういうわけにもいかない。

 どうする……どっちが正解だ……?


「……そうだな、誘いたいなら構わないぞ。ただ、白神はともかく知らないやつが来るんだ。ここの本には貴重なものもあるし、念のため本と俺は別の場所に移すが構わないか?」


「あ、本はいいんですけど、先輩……津江野先輩の話も聞きたいって言ってたので、できれば津江野先輩にはいてほしいんですけど……」


 だめ、ですか? と上目遣いで聞いてくる白神。


「さっき毎日ここにいるからって言ってたので……」


「う゛っ……」


 そういや、そう言ったばっかりだったわ……

 言ってしまっている手前、無理やりここで拒否ると変に思われる可能性がある、か。

 ……仕方ない。


「わかった。なら、いつ来るのかを教えてくれ。簡単ではあるが歓迎の準備はしておこう」


「本当ですか! やった!」


 無邪気に喜ぶ白神。その横には、複雑な心境で彼女の様子を眺めつつ、どうしようかと本気で考える男の姿があったのだった。

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