第15話:表の物語

「……おかしい。何か変なエネルギーの反応があったから来てみたが……なにも変化はない?」


 少々癖の強い新入同行会員希望生をあれやこれやで追い返したすぐ後のこと。

 前に調査していた大樹の付近から再び妙な光とエネルギー反応があったため急いで来てみたのだが……特にこれと言って変わったところは見られない。


 それこそ、陣を使用して周辺状況まで探ったうえでの話だ。


「俺の見当違いか……? いや、でもあれだけわかりやすく反応していたし……」


 うーん……わからん。

 何がどうしてそんな反応が出ていたのかが全く分からない。感知できたエネルギー反応が純粋な魔力とは違う何か別の力である可能性が高いため、陣を使った操作がうまくいっていないという可能性もある。そもそもあっちは、エネルギーといえば魔力、みたいな世界だったしな。


 つまるところ、現状では何もわからないということ。そして考えても答えの出ない答えに時間を使うほど、暇はしていない。


「……そうだな。生気以外のエネルギーを魔力に変換する方法でも考えてみるか? 他からも供給できれば、集められる量はもっと増えるだろうし」


 生気は魔力の元みたいなものであるため変換は容易いが、他にとなるとかなり難しいだろう。だが、やってみる価値はある。

 そうだ。手短に電気を変換できるかやってみるか。向こうでも雷の魔法使ってたやつもいるし。


 その頃にはすでに大樹への興味も鳴りを潜め、電気を魔力に変換する方法で頭がいっぱいだった俺は、踵を返して寮へと急ぐのだった。





 ねねとアルトバルトを狙ったジャアックの腕の一撃が地を叩く。

 幸い動きが緩慢であるため余裕をもって避けられた二人だったが、とてつもない轟音とともに巨大なクレーターが形成された。


「ねぇ!? あれ何なの!? すっごいおっきいんだけど!」


「それも後で説明するアル! 今はとにかく、あれを倒すことだけ考えるアル!」


「あれを!? む、無理に決まってるじゃんそんなの! 私ただの女子中学生だよ!?」


「無理じゃないアル! 君は伝説の騎士、宝石の騎士ジュエルナイトアル!」


 10メートル以上飛び上がりながら後退するねねと、その肩に掴まるアルトバルト。そんなアルトバルトの言葉に、ねねは宝石の騎士ジュエルナイト? と首を傾げた。


「そうアル! 僕らの国妖精郷フェアリーガーデンに伝説として語られる騎士のことアル! その力があれば、あいつらにも負けないはずアル!」


「でもどうやって……」


「心に従うアル! そうすれば、世界樹の宝石がその気持ちにこたえてくれるアル!」


 そんなこと言っても、と言いたいねねであったが、ジャアックの方向がそれを妨げる。

 再び振るわれた腕の一撃。アルトバルトとの話に気を取られていたねねは回避できないと判断し、この一撃をその場で受け止めた。

 その大きさゆえに、本来であれば受け止めた結果がどうなるかは簡単に想像できる。しかしねねの体は微塵も揺るぐことなくその攻撃を受け止め、逆に攻撃したジャアックが姿勢を崩してしまう。


 その様子に目を見開いたねね。

 これはいけるのでは? と考えた彼女は、先ほどのアルトバルトの言葉を信じて足に力を籠める。


 ――心に剣を


 思い切り飛び上がった彼女が向かう先はジャアックの顔。

 一足でそこまで飛んできた彼女に対し、ジャアックは腕を振るう。しかし、動くにはあまりにも遅すぎた。


「やぁぁぁ!!」


『ジャアックゥゥゥッ!?』


「チィッ! 何やってやがるジャアック!! 早くそいつらを倒せ!!」


 ジャアックの顔面に入った一撃。あたりに響いた轟音からその威力はかなりのものであることが窺える。

 たまらないという様子のジャアックが後ろ向きに倒れこみ、その様子を見ていた男が叫んでいた。


「今アル! 騎士の力で討伐するアル!」


「え!? ど、どうやって!?」


「宝石の声に従うアル!」


 どういうことなのそれ!? とねねが聞く前に、こうすればよいというやり方が頭に流れ込んでくる感覚を覚える。

 やり方を理解したと察したアルトバルトは、ぴょんとねねの肩から飛び降りた。


「ブレイドセット! 灼熱の剣よ、今ここに炎の証明を!」


 携えた剣を抜刀し、胸の前に立てるように構える。

 すると、ねねの言葉とともに剣が熱を帯び、ガードの部分から噴出した炎が瞬く間に刀身を覆う。

 その剣を大上段に構えた。


「バーンインパクトォォ!!!」


 振り下ろされた剣から炎がほとばしり、斬撃とともに巨大なジャアックを焼き尽くす。


「チッ!」


 これはまずいと判断した男は、ジャアックの側から離脱。

 取り残されたジャアックは苦しそうなうめき声をあげながらその姿を小さくし、やがて炎が鎮まるころには何もなかったようにカバンが残されていた。


「……倒せたの?」


「す、すごいアル! さすが伝説の騎士宝石の騎士ジュエルナイトアルゥ!」


 呆然とするねねに対し彼女以上に喜ぶアルトバルト。

 そしてそんな二人と対照的に不機嫌な様子を隠そうともしない男は、一度撤退して情報を持ち帰ることを選んだのだった。





 これは本来表として語られるはずだった少女の物語である。

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