第12話:赤園ねねと探し物
今日も昼過ぎまでだった学校が終わると、私はすぐに大樹のもとへとやってきた。
あまりにも急ぐから舞ちゃんにどうしたのかと聞かれたが、「ちょっと用事!」とだけ言って別れてきたのだ。
生徒会の用事もあるのに舞ちゃんに気を遣わせたらダメだと思って一人で来たけど……
「ん-……見つからないなぁ……この辺にあると思ったんだけど」
昨日のハムスターを見つけた場所を中心に探してみたけど、目当てのものは見つからない。
「何か、飼い主さんがわかるもの、ないかなぁ……」
ハムスターが野生ってことはないと思うから、誰かが飼っていたのが逃げたかはぐれちゃったのかと思ったんだけど……
手に乗っちゃうくらい小さいハムスターだから、そういう目印も小さいのかもしれない。
見落としているのかもともう一度探した場所を探してみたけど、それでもやっぱり見つからない。
「……ん?」
木の隙間から何か光るものが見えた。
なんだろうと手を伸ばしてみるが、相当奥に入り込んでいるようで届かない。なので私は近くから枯れ枝をもってきてそれを手繰り寄せるように拾い上げる。
「これは……何だろう? ガラス玉?」
手にしたそれを見てみれば、透き通るような赤色の珠。日差しにかざしてみれば、赤の模様が動いているようにも見える。
その様子にしばらく見とれていた私だったけど、違う違うと首を振る。今日はあの子の飼い主の情報の探すのだった。
まぁそれはそれとして、この綺麗な珠は明日舞ちゃんに自慢でもしようっと。
珠を制服のポケットにしまい込み、再び探索を始める。
しかし、そこから1時間ほど粘って探してみたのだがそれらしきものは一向に見つからなかった。
「ここじゃないのかなぁ……」
「おう、嬢ちゃん。何かお探しかい?」
突然背後からかけられた声に驚きながらもそちらを見ると、そこには金髪の浅黒い肌にアクセサリーをいっぱいつけた男の人がそこにいた。
ニヤニヤと笑みを浮かべるその様子がいかにも怪しそうで、私はついつい警戒して身構えてしまう。
「……誰ですか?」
「おっと、そんな怪しまないでくれよ。別に取って食おうって話じゃないんだからさ」
「そういう人はみんな怪しいってよく聞きます」
おっとそうだった! と自分のおでこを叩いて見せる男。そんな彼の仕草は見た目通りの軽そうな印象を受けるのだが、なんだかその行動の節々に嫌なものを感じる。
「おっと……余計に警戒させちゃったかねぇ」
やれやれ、と肩をすくめてため息を吐く男。そんな男が目を離した隙をついて、私は置きっぱなしにしていたカバンを手に取って駆けだした。
こんな見るからに怪しそうな人とこれ以上話をしていても仕方ないし、あの視線にこれ以上晒されたくない。
そう思うと私の体は自然と逃げることを選んでいた。
これでもそれなりに運動はできるし、男とは逆方向に逃げてるんだ。いくら大人の男の人の足でも追いつくなんてことは――
「おっと、いきなり逃げるなんてひどいなぁ! つい追いかけちゃったじゃないか」
「――え?」
しかし、私の足は数歩駆け出したところで強制的に止められてしまった。
いつの間にか目の前にいた男は、私を見下ろしながらにっこりと微笑みかけて来る。
「っ!?」
その笑顔が冷たく不気味なようなものに見えて、私は一歩退いた。
「だぁから、そんなに怖がらなくても……はぁ、面倒くせぇ。もういいや」
やめだやめだ、と首を振る男を見て、すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。
しかし、頭ではわかっていても体が言うことを聞いてくれない。
奥歯の奥がカチカチと音を立て膝が震える。
「ちょっと君に聞きたい事があるんだわ」
「な……何ですか……?」
男の問いかけに何とか絞り出した声は、すぐにでも消えてなくなりそうなほどか細いものだった。
「君、昨日ここで生き物拾っただろう? それを連れてきてほしいんだよ」
「あ、あなたは……か、飼い主さんなんですか?」
「ん? 飼い主……ああ、そうそう。俺、あれの飼い主なんだわ。だから、早く連れてきてくれると助かるなぁーって」
ね? とおどけて見せるその様子に嘘だと言いたくなったけど、私の口から出たのは細くなってしまった呼吸だけ。
怖くて怖くて、でもどうすることもできなくて。
「ねぇ、俺さあんまり気が長いほうじゃないんだわ。さっさとしないと……」
目の前まで伸ばされた男の手に、思わず身を縮めて構えてしまう。
こんな時にマジックナイトリンみたいに勇気が出せたならどれほどよかったか。でも、そんなことは私にはできなくて。
こうして怯えることしかできなくて……
――チュゥ‼
「おわっ!?」
不意な男の驚く声に顔を上げると、そこには男の顔に飛び掛かっているハムスターの姿が……
「って! 何でここに!?」
「この!! うぜぇんだよ!!」
「キュッ!?」
男の腕に振り払われたハムスターは、勢いよく飛んでいく。
あの勢いでどこかにぶつかったりしたら、さらに怪我が増えてしまう! そう思った私の体は、先ほどまでの硬直が嘘のように動き、横っ飛びでハムスターをキャッチ。
代わりに私の膝が擦り剝けちゃったけど、これくらいなら問題はない。
「大丈夫!? 怪我してない?」
「キュ~」
手の中の子の様子を確認してみたが、どうやら昨日見た怪我以外は問題はなさそうだった。目を回しているくらいだ。
よかった、と安堵の息をつく。しかし、だからといって安心できる状況じゃなかった。
「くぅっ~……! イケてる俺の顔面に爪を立てやがってぇ……! ハンッ、まあいい。目当ての奴が自分で来てくれたんだからな」
なぁ、王子様よぉ! と男の視線が向けられたのは私の手の中にいるハムスター。
いったい何を言っているのかと疑問に思う私だったが、そんな疑問を吹き飛ばすくらいの言葉が飛び出したのだ。
私の手の中から!!
「まさかこの世界まで追いかけてきていたアル……」
「……え」
「はっ! んなこと王子様が一番よくわかってるだろう? お前が持ち出したもんを返してもらいに来たんだよ」
「何が返してもらうアル! 奪いに来たのはお前たちアル!? そのせいで僕らの国は……!!」
手の中のハムスターと男が何やら言い合いをしているが、その渦中にいる私にとってはそれどころじゃない。
……え、あれ……最近のハムスターってしゃべれるの?
赤園ねね、今年で14歳。
どうやら、とんでもないことに巻き込まれている気がします……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます