第10話:賢者の楽園に侵入者が一人
「あ、あの……失礼します……! こ、ここ、オカルト研究部の部室であってますか……!」
少し緊張して入ってきたのは、今日入学したばかりの一年生であることを示す赤いリボンを付けた女子生徒。
見た目からして中学生くらいだろうか。しかし、ボブカットされた白髪に赤い目という組み合わせは見た目の幼さも相まって幻想的にも思える。
「あ……いや、ここはオカルト研究部じゃないけど」
「……え!? あ、あれ……私間違えちゃったのかな?」
『集えオカルトマニア!オカルト研究部募集!』と書かれた紙を取り出して、そこに書かれている地図を確認する女子生徒。
一見ドジっ子のかわいい女の子にしか見えないだろうが、俺はそんな彼女の様子を注意深く観察する。
人払いの陣の中を単独で無力化してきた相手だ。得体のしれない何かを相手にするときは、まず警戒を怠らないことが重要となる。
「あ……す、すいません! 場所間違えてしまっていたようです……!」
「ああ、気にしないで。この学園大きいから、入学したばかりなら仕方ないよ」
警戒していることを悟られないよう、にこやかな笑顔で対応する。
「あ、ありがとうございます……あ、あの……ここはいったい何部なんですか?」
頭を下げつつ、上目遣いでこちらに問うてくる女子生徒。
狙ってやっているのか、はたまたそんなことも考えずにそうなっているのか。どっちにしろ仕草があざといように思える。
「ここは黒魔法研究同好会。まだ部じゃないんだよ」
「あ、すいません。同好会だったんですね……あれ? でも同好会って確か部室はもらえないんじゃ……?」
「ああ、それはあれだ。……いろいろと条件を付けて使わせてもらってるんだよ」
こんなことになるとは考えてもいなかったため、痛いところを突かれた質問だった。しかし馬鹿正直に「暗示(洗脳)♪」なんて言えないためとっさに出てきたのはそんなあいまいな言葉だった。
一瞬ダメか? と思ったが、当の本人はへぇ~! と特に何も考えていなかった様子。それどころか、「あ!」と声を上げて部屋の中へ入ってくると先ほどまで俺が読んでいた魔法書を手に取った。
「あ、あああの!! こ、これ!! これどこの本ですか!?」
「……え? あ、それは……」
「すごい! 私の見たことのない本! それに中身の文字も私の知らない言語で書かれた本だ! 描かれている絵が魔法陣みたいなのが多いし黒魔法って言っていってたからここの魔法陣は全部それ関係の本なんでしょうか!? オカルトマニアとして黒魔術もある程度知ってますけど今まで見てきた本よりも凝ってるし中身の雰囲気もそれっぽくてすっごく私好み……ってわぁ!! う、後ろの本棚にもいっぱい本がある! あ、あれもこれも全部黒魔術関係の本なのかな……!? ぜ、ぜんぶ私が今までに見たことのない本だしちょ、ちょっとくらい中身を見るのも――」
「……おい」
「……はっ! す、すすすすすいませんんんん!!!」
いきなり断りもなく部屋に突入した挙句、気が狂ったかのようにそこら中を物色し始めた女に声をかけてやれば、彼女はハッとした後すぐさまその場から退いた。
「あ、あああの私……昔からこういうのには目がなくて……」
「だからといって人前で暴走するのは違うだろうに。それに、許可もなく勝手に物色されても困る」
「ほ、ほんとうにごめんなさいぃぃぃ……」
もともと小さい体躯をさらに縮こまらせて謝る少女。
いや別に意地悪でこういう言い方をしているわけでは……ないことはないのだが、もし仮にこの少女が本棚の中の魔法書にまで手を出していたら最悪命を落としかねなかった。
なにせ、あの本棚の中には正しく読まなければ触れたものの命を奪いかねない呪われた魔法書だってしまってある。誰も来ないし俺しか読まないと思っていたから、そういう魔法書も普通に置いているのだ。
この少女がどうやってこの場所にたどり着いたのかは不明だが、だからと言って呪いも大丈夫とは限らないだろう。
「まぁ、反省してるならいいよ。オカルト研究部の部室だけど、ここの旧館じゃなくて、新館の3階だよ。今度は間違えないようにね」
「は、はい……ありがとうございます……」
恥ずかし気な様子でそそくさと部屋を出ていく少女を見送り、俺は再び部屋の扉を閉めて椅子に腰を下ろした。
ふぅー、とため息を吐く。
「……どういうことだ?」
改めて考えるのは先ほどの少女のこと。
俺が設置した人払いの陣は、「なんとなくこの場所に近づきたくない」と思わせる人の無意識に働きかける陣だ。
だからこそ人はこの場所に近づこうとしない……はずなんだが。あの少女のような例外が出た限り、俺の陣も絶対ではなかったということか。
「……また来られても困るし、陣の強化でもしておくか。ついでに、色々と付け足しておこう」
その日の帰り道、俺は人払いの陣の効果を上書きして強化し、その他何もないところから音を鳴らす陣やくすくすと笑い声が聞こえてくる陣。さらには陽が出ていても急に真っ暗になったり、足音がすぐそばで聞こえる陣などのドッキリエンタメ系の陣なども用意した。
中学生の女の子だ。これだけ驚かせてやれば怖くなって勝手に帰るだろう。
◇
「
「何でいるの……!?」
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