茸はうまいが毒が危ないから見分けるための知識は大切だ。

 さて、秋も深まって葉っぱが落ちる頃になると、茸がうまい季節になる。


 茸はほとんど栄養のない食べ物に思われているし、実際タンパク質や炭水化物、脂質と言った面の栄養はほとんど含まれていないのは事実だ。


 しかし、ビタミンやミネラルなどは意外に豊富で食物繊維も多い、何より香りや出汁を得られる食べ物は少ないのでそういう意味では非常にありがたい。


 というわけで今日はきのこ狩りだ。


 しかし茸には毒を持つものも多い。


 茸は人間だけでなく鹿や猪、猿などの獣も食べるし、ナメクジやカタツムリなどの軟体生物や昆虫も食べる。


 茸の形になるのは増えるためなので、簡単に食べられては困るから中には毒を持つに至ったものも居るわけだ。


 日本には約5000種類ほどの種類のキノコがあるが、そのうち700種が食用とされ、約100種が毒キノコであるといわれている。


 特に危ないのは触れただけでも皮膚に炎症をおこすほどの猛毒を持つカエンタケだな。


 まあこれは真っ赤な見た目でもよくわかる。


 その他にも食べると内臓が破壊されて死ぬ茸のタマゴテングタケ、シロタマゴテングタケ、ドクツルタケ、タマゴタケモドキ、フクロツルタケ、ドクキツネノカラカサ、クリイロカラカサタケ、ニガクリタケ、ヒメアジロガサ、クロタマゴテングタケ、ツルタケダマシ等がある。


 特にドクツルタケは注意が必要だ。


 欧米ではデストロイエンジェル(Destroying Angel)などという名前すらついている。


 21世紀現代でもこれを天麩羅にして、一家全滅なんてのは実際あるからな。


 その他には月夜に光るツキヨタケなんかも危ない。


 これらの毒キノコの怖い所は美味しくて食べられる茸に外見が似てる場合があることだ。


 シイタケやヒラタケ、ナラタケなどの食用とするきのこに似ているものもあるので馬鹿にできない。


 そういった毒キノコを間違って食べてしまうことを防ぐために縄文人は特に危険な茸に形を似せた土器を焼いて、採取者に注意を促し、見分けがつきにくいものは、食用か毒でないかを見分けるために傘の中に傷をつけて色の変化を確認したりする。


 ちなみに色の派手なキノコは毒で、地味な色の茸は食べられると言うのは嘘だ


 縦に裂けるキノコは食べられ、縦にきれいに裂けないキノコは毒があるというのも嘘だ。


 どんな毒キノコでも塩漬けや加熱、干したりすれば毒抜して食べられるというのも嘘だ。


 虫や獣に食われていれば食べられ、虫や獣の食べたキノコは毒がないというのも嘘だ。


 だからよっぽど気をつけないといけない。


 とは言え縄文人は採取のスペシャリストでも在る。


 特に採取を主に担当する女性は、食用と紛らわしい毒キノコと致死性のある毒キノコだけは確実に頭に入れてある、これは草などの植物についても同じだ。


「これはだいじょうぶー?」

「これはだいじょうぶー?」


 双子にも茸の模型である土器を持たせて茸を見比べさせている。


 イアンパヌが茸を見て首を振る。


「此れは駄目ね、食べたら死んじゃうわ」


 ササッとキノコから離れる双子。


「こわーい」

「こわーい」


 ちなみに食える茸かも知れないが、毒かもしれない場合は無理して取らない。


 そこまで危ない橋を渡る必要もないしな。


「お母さんは凄いよね、私にはあんまり見分けがつかないもの」


 上の娘がそういう、実は俺もあんまり自信はない。


「まあ、それはなれてますから」


 やっぱり経験の蓄積というのは大事だよな。


 そしてこの時代は余計な情報が少ない分だけ、記憶を忘れてしまうことも少ない。


 食べられるきのこが十分取れたら持って帰ってキノコ鍋だ。


 鍋には鮭も加えるぞ。


 一口食えば体も温まる気がするぜ。


「んーやっぱうまいわ」


 イアンパヌも笑顔で言う。


「そうね、茸はとっても美味しいわ」


 一方双子はほぐした鮭をふうふう吹いて食べていた。


「うまー」

「うまー」


 みんなの笑顔が広がっていく。


 やっぱり食べ物は大事だよな。

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