縄文時代は遠くに行った人間の話を聞くのも楽しみの一つだ
さて、秩父から砂金や銅、翡翠などを持って返って来た後日のことだ。
双子が俺たちにしがみついて来て、見上げるようにしていった。
「とーしゃ、にーしゃ、おはなししてー」
「とーしゃ、にーしゃ、おはなししてー」
俺と息子は双子から秩父へ行って、戻ってきた時の話を双子にせがまれていた。
基本的に縄文時代は女子供は村からなかなか出られないうえに、出られても近場の海、川、雑木林ぐらいだからな。
なので、どこか遠い場所に出かけた人間が居ると、その途中に有った出来事や風景を語って聞かせるのは残された人間にとってもとても楽しみなことだったんだ。
俺はなんやかんや動き回っていたのでなかなかできなかったけどな。
いまは息子が話しをしている
「そうだね、じゃあ、まず僕と父さんとが出かけようとしたら、シャオおじさんも一緒にいくことになった。
僕たちは浜に上げてある船をみんなで海に押して浮かべて、僕が櫂を、父さんが艫を、シャオさんは帆をそれぞれ操って、海の上を進んでいったんだ。
海はとてもきれいで時々魚やイルカが船の周りに集まってきたり、海鳥が帆に止まったりしながら海の向こう側の陸も見えたりしたよ」
息子の話はいみがよくわからなかったのか首をかしげる双子。
「むこうー?」
「むこうー?」
息子は丁寧に説明する。
「海の向こうにも同じように陸があって、同じように人が住んでるんだって。
そうですよねお父さん」
息子の言葉に俺は頷く。
「ああ、そうだ、海の向こうにもおんなじように人が住んでて、おんなじように魚や貝を取って食べたりしてるぞ」
双子はキラキラと目を輝かせてる。
「すごーい」
「すごーい」
イアンパヌや上の娘も革の服を作りながら、俺たちの話を聞いている。
「それで、ずっと北に向かっていくと、この近くの大きな川ととおんなじように、とっても大きな川があるから僕達はそこに入っていった。
その時船の方向を変えたりするのはけっこう大変だったよ」
双子はウンウン頷く。
「たいへーん」
「たいへーん」
まあ、双子には何が大変なのかはわからないだろうけど、とにかくわかった感じにはなってるようだ。
「川の流れはそんなに早くないから、僕が櫂を、父さんが艫を、シャオさんは帆をそれぞれ操って
川上に進んでいったんだ。
帆や櫓がない分だ前は大分大変だったみたいだけど、僕はそんなに大変じゃなかったね」
双子はバンザイと手を挙げ喜ぶ。
「とーしゃすごーい、よかったー」
「とーしゃすごーい、よかったー」
まあ、ずるっこなんで本当はそんなに偉くないけどな。
でも、食べ物をなるべく手づかみで食べないで箸や石匙をつかうこと。
食べる前に手を煮沸した水で洗うこと。
そういったことをするだけでも多分だいぶ違うのだろう。
前に比べれば乳幼児死亡率は結構減ったと思う。
「それで、川の周りは木が生えていたり草原だったり、僕たちはひたすら川を上っていったんだ。
ある程度上がっていくと川の流れが急になって、船で上がるのが厳しくなったから、船を川岸に寄せてみんなで引っ張り上げたよ」
双子はウンウン頷く。
「たいへーん」
「たいへーん」
「それからは山をずっと登っていった。
山っていうのはずっと坂が続いてるから、上がるのは大変だったね」
双子はウンウン頷く。
「たいへーん」
「たいへーん」
「それで無事村についた時は僕はホッとして、しばらく休んでた。
父さんはそっちの洞窟の村長とこっちから持っていった、塩や貝と色々交換してたみたいだけどね」
俺は息子に続いて言う。
「まあ、山が始めてだとそうなるぜ。
俺も最初は大変だったしな」
まあ、そのころは背負子もなく土器を抱えていったりもしたせいで余計大変だったしな。
「それで、その後川に行ってあの金を探したんだ。
草の根っこに絡まってたり、岩の割れ目に落ちてたりするやつを掻き出したり、でもいっぱい取れてキラキラで綺麗だったよ」
双子は腕輪にした金を目に出して喜んでる。
「きらきらー、すごー」
「きらきらー、すごー」
イアンパヌも上の娘も嬉しそうに金の腕輪を見ている。
この時代は貝の腕輪や足輪はあるが金はなかなかないからな。
ちなみに砂金自体はだいたいどこの川にも在るんで、多摩川上流でも取れないことはない。
しかし、秩父のほうが距離的には多分近いし量も多いはずだ。
銅や翡翠も手に入るしな。
「あとは、川の流れに沿って川を下るだけだったから帰りは楽だったよ。
のんびり流れに乗って櫂とか艫を漕いでくれば早く川も下れたしね」
双子がウンウン頷く。
「らくー」
「らくー」
「で、僕達は無事戻ってきたあとで、みんなに金や翡翠を、分けたりしたわけさ」
「よかったー」
「よかったー」
双子たちは大満足なようだ。
基本女は隣村に行くようなこともないしな。
話を聞いて頭のなかで景色を思い浮かべて楽しんだんじゃないかな。
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