この時代の行動が主に家族単位なのは共同作業の必要性がうすいからだな
さて、現代では衣服というのは売っているものを買うのが普通だが、長い歴史を見るとむしろ服は自分たちで作るのが普通だった。
縄文時代でもそれは変わらず、寒い時期に着る革の服も、暑い時期に着る麻の服も、基本的には全部自分たちで作って身につけたし、何らかの理由で破れたりした場合も継ぎを当てたり、もう一度編み込んだりしてなるべく長く使った。
そしてイアンパヌはもう毛皮の衣服を作り始めている。
子供は皆成長するので毎年大きさに合わせて作らないといけないのだ。
「そろそろ秋冬の服作りか」
イアンパヌが微笑んで言う。
「そうですね、でも上の娘が手伝ってくれるようになったから、その分は楽になったわね」
イアンパヌと一緒に鞣した革をナイフで裁断したりしている上の娘も微笑んだ。
「まあ、ちびっこたちの服を作るのもそれで楽しいですよ。
お父さんの服も新しく作りましょうか?」
俺はその言葉に考えてからこたえた。
「まあ、余裕があれば作ってくれると嬉しいぜ。
でもお前さんやチビ助たちの分が作り終わって、余裕ができてからでいいけどな」
上の娘は笑顔で頷いた。
「じゃあ、余裕ができたら作りますね。
その代わり飾り物を作ってくれませんか」
俺はハハとわらう。
「なるほど、じゃあ俺も何か探してこないと駄目だな」
イアンパヌも言う。
「あら、じゃあ私にも当然くれるわよね」
そして双子も割り込んできた。
「とーしゃ、あちしもー」
「とーしゃ、あちしもー」
「お、おう、頑張ってみるぜ」
うむ、これはちょっと大変かもしれん。
それはともかく縄文時代は食料はわりと豊富でそこまで食料を得るために時間はかからないことが多い。
だから、余った時間で服を作ったり、土器を作ったり、釣具や狩猟道具を作ったりすることもそれほど難しくないのだ。
そして一般的な集落はどこも同じような感じだな。
なんで専門で服を作る人間をきめたりしないかというと、どうしても不公平が出るからだ。
例えばある二人が一人に服を作るのを頼んだとしよう。
そして頼まれた側からみた頼んだ側は片方は好みでもう片方は好みでないとする。
そうなると後はどうなるかはわかるな?
ほかにも例えば樹の実拾いをすべて共同作業でやるとする。
この時頑張って一日100個拾ったやつと怠けて20個しか拾わなかったやつが居るとして、その分配が60個ずつだとしたらどう思うだろう?
21世紀の現代でもあるだろう、仕事の量がぜんぜん違うのに俺とあいつがどうしておんなじ給料なんだってことが。
平等であることは必ずしも公平ではない。
だから普段の行動は基本的家族単位なわけだ。
勿論病気や怪我で動けないやつなんかは、余裕のあるやつが手助けするのが普通だ。
困ったときはお互いさまってな。
これは家族同然の存在である犬についても同じで、怪我をしたり歳をとったりして狩りに出られなくなっても区別せずに一緒に可愛がってるぜ。
やっぱり生活の余裕って大事だよな。
さて、きれいなものと言うことで砂金を取りに久しぶりに秩父へ向かおうと思う。
そして船を改良することにした、川をのぼるのはやっぱり大変だからな。
「まずは櫂の改良だな」
パドルよりもオールのほうが楽なのはテコの原理を利用できるからだな。
おれは船の即弦に穴を開けてその穴を通して上に縄で輪っかを作ってそこに櫂を通せるようにした。
これで漕ぐのがだいぶ楽になるはずだ、同時に二本の櫂を漕げるようにもなるしな。
「さて、後は艫だな」
船の一番後ろに艫を差し込むための穴を開けて、艫の本体も削って作る。
「まあ、こんなもんか」
アウトリガーはつけたままで安定性を高めるようにはしてある。
「じゃあちょっと秩父に行ってくるな」
そう家族にいうとと息子が思わぬことを言い出した。
「父さん僕も一緒に行きたい」
俺は少し考えてから許可を出した。
「わかった、一緒に行くか」
息子は目を輝かせていった。
「うん、ありがとう父さん」
残りのメンバーは当然見送りだ
「はい、行ってらっしゃい」
「おとうさん、いってらっしゃい、気をつけて」
「らっしゃー」
「らっしゃー」
双子がパタパタ両手を振って見送ってくれる。
そしてなぜかシャオが一緒に行く事になった。
「面白そうだし一緒にいくよ」
「まあいいが、奥さんは大丈夫なのか?」
「はは、大丈夫大丈夫」
まあ、夏なら余裕で一人でも食っていけそうではあるけどな。
素潜りは奥さんのほうが得意みたいだし。
今回もこちらから持っていくのは塩と綺麗な貝殻、それに干しイワシに干しアワビだな、これ等を土器に入れて手土産にして秩父へ向かう。
背負いかごや背負袋にいれてもっていく、ネコ車も当然持っていくぜ。
「おや、これはなんだい?」
さすがのシャオも艫の船は初めてらしい。
「ああ、これは艫って言ってな、
こうやって左右に漕げば勧めるんだ」
「なるほど、魚と同じだね」
「よくわかったな、だからその分ムダが少なくてすむぜ。
最も立ってこがないといけないからその分、落ちないように気をつけないといけないけどな」
今回秩父に向かうのは俺、息子、シャオの男3人、必要なものを船に載せたら早速出発だ。
帆を広げると、南風をうけて東京湾を船はするすると北上していく。
更に艫を漕いで速度を上げる
「おお、たしかにこれは早いな」
「ああ、うまく行ってよかったぜ」
うまく行かなかったら櫂ですすめるしかなかったからな。
まあ、櫂は舵代わりでもあるんで結局必要なんだけど。
船は古入間川に入り帆を斜めにしながら風を受けて進み、俺は艫を漕いで船を進め、息子が櫂で方向を細かく調節しつつ、順調に川をあがっていく。
日暮れ前に岸辺に丸木舟を上げて近くの集落に塩を渡して一泊する。
翌日ずっと西に向かって進んでいた船を荒川に向けて北に分かれる方へ進めば、やがて秩父に入る。
丸木舟を陸に上げてそれぞれが背負子などに荷物を載せて山道を登っていく。
艫のおかげだ大分早くつけたぜ。
ひたすら山道を登っていくとようやく人の住む洞窟についた。
「よし、ついたか」
鹿庭洞窟の村長に挨拶をする。
「お久しぶりです。
村長また銅や石灰岩、あとあれば翡翠や琥珀を譲っていただきたいのですが、それと川での金の採掘も許可してください」
村長は微笑みながら俺達を歓迎してくれた。
「まあ、たくさんのお塩に貝、それにお魚と干した貝ですね。
ありがとうございます。
大丈夫ですよ。
それからこちらでも少しずつ集めておきましたので、どうぞ、見てください」
「其れはありがたい」
そう言うと俺達は倉庫のような竪穴式住居に案内された。
倉庫の片隅に銅が含まれた鉱石が積み上げられている。
それと一緒に翡翠や琥珀もおいてある。
「ああ、こいつは助かるぜ」
「では、この塩と交換に銅はこれくらいでいかがでしょう?
後貝殻と交換で翡翠と琥珀はこれくらい」
「ああ、其れでいいですよ。
ありがとうございます」
「いえいえ、お互い様ですから」
どうやら前と変わらず村人たちが河原や川の中に落ちている銅鉱石、翡翠や琥珀などを拾い集めておいてくれたようだ。
まったくもってありがたい。
俺達は川沿いを歩いて長瀞へ向かい、草の根っこに絡まってる砂金を木の皿でふるい分け、岩のヒビの間などに挟まってる金を鈎状の針でひっかき出す。
長瀞といえば関東で一番有名な砂金の産地でもあるからな。
それなりの大きさで厚みもある。
21世紀現代だと趣味で取る程度で北海道や東北以外では砂金はほぼ取り尽くされてるけど、この時代だと取り放題だ。
「いやいや、大漁大漁」
「綺麗だね、すごいや」
「本当だね、シャンが喜ぶ顔が目にうかぶよ」
結構な量の砂金を拾い集め満足した俺達はそれ土器に入れて持って帰った。
秩父の鉱山は意外と色んな種類の金属が取れるんだよな。
あとは帰るだけだ。
「ありがとうございました。
また来ると思いますのでそのときはよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
俺達は秩父の山道を降りて、丸木舟のところまでおりたら後は川を下っていくだけだ。
流れに任せて丸木舟は川を下っていき東京湾に出たら艫と櫂を漕いで行けば無事に村に帰ることができた。
そして我が家に帰る。
「おーい、只今帰ったぞ」
「ただいま帰りました」
俺たちを家族が笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい、あなたが無事でよかったです」
「お父さんお帰りなさい」
「とーしゃ、おかえりなしゃー」
「とーしゃ、おかえりなしゃー」
トテトテと歩いてきてガシッと抱きつく双子をおれは抱きかえした。
「只今、おまえたち、俺が居なくて寂しかったか」
「あい、さみし-でした」
「あい、さみし-でした」
双子は特に俺になついてるからな。
「じゃあ、お前さんたちにおみやげだ」
俺は娘を下ろすと秩父で取れた砂金を。
「きらきらー、きれー、ありがとでしゅ、とーしゃ」
「きらきらー、きれー、ありがとでしゅ、とーしゃ
それを見てイアンパヌが笑う。
「あらあら、私にはないのかしら?」
「もちろんイアンパヌの分も取ってきたぞ」
俺はイアンパヌに砂金を手渡した。
「まあ、ありがとうね、あなた」
「お父さん私には?」
「大丈夫だちゃんとあるぞ」
娘にも砂金を渡してやる。
「わーい、ありがとう、お父さん大好き」
娘は抱え上げて高い高いしてやるとキャッキャと笑う。
みんな喜んで何よりだ。
この時代でもキラキラ輝く物は女は好きだからな。
まああんまり固い宝石は加工できないから宝石などの種類はごくごく限られるけど。
さて、前に銅を溶解加工したように俺は砂金の溶解加工に挑戦する。
銅を溶かした時に作ったふいごをもう一度木と革を使って作る。
あとは薪や木炭に充分な空気を吹き込むことで金も溶かせる。
そして珪素分の多い充分に焼いた土器は七輪と同じで熱を加えても割れない。
焼いたレンガで溶鉱用の炉を作って砂金を入れた土器を入れて薪をもやし、ふいごで空気を送ってや金を溶かす。
「あちちち、やっぱり大変だよな」
金が溶けたら火からおろし十分冷えたら土器を割って金を取り出し、石床と石のハンマーで叩いて形を整える、紐で首からぶら下げられるペンダントだな。
「ん、こんな感じかね」
これは新しく村長になったウカエチウに進呈する。
「あら、こんなきれいなものありがとうございます」
「いやいや、変わったばかりで村長として大変なのによく頑張ってるしな」
そんな感じで村長に加工した金を渡した後、うちの家族の金も同じように首飾りに加工してやったのは言うまでもない。
そしてその後、金の首飾りが流行るようになった。
時代が違っても黄金には人を惹きつける何かがあるんだな、きっと。
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