冬は暖かい家の中に引きこもるのが一番だ。

 さて、冬になれば、縄文時代であっても当然寒い。


 アニメやら博物館でやらでは原始人が腰に毛皮を巻いてるだけの姿でいることが多いが、赤道に近い熱帯地方ならともかく、四季がある場所で冬を過ごすのにそのカッコじゃ無理だろ。


「まあ、寒くなってきたし、みんなはあんまり外に出るんじゃないぞ」


 イアンパヌは笑って頷く。


「そんなことは、わかってますってば」


 上の娘もちゃんと頷く。


「はい、お父さん」


 息子はちょっと不満そうだ。


「ぼくとーしゃんといっしょがいいでし」


 俺は息子に言い聞かせるように言う。


「お前さんがもうちょっと大きくなったら、ワンコと一緒に狩りに行くようになるが、まだちょっと無理だ。

 今はおとなしく家で待ってろな」


「うう、わかったでし」


 うむ、息子がたくましくなってきて何よりだ。


 これからの季節は植物性の食べ物は得るのが難しいから、秋口に収穫した鮭の干物や塩漬け、アク抜きの工程の終わった、栃の実などの木の実や穀物、水場の鴨などの水鳥やその玉子も食べるが、猪や鹿を主にした動物の狩猟がメインだ。


 しかし、食料があるなら寒い中にそとを出歩くより、竪穴式住居の中にこもっていたほうがいい。


 炉で燃やされている薪拾いや飲むための飲料水を川に行って汲んだり、貝塚に行って小便や大便をするなどはどうしても必要だがな。


 そうでなければ、家の中で体を動かさずに過ごすほうがいいのだ。


 そうすれば腹も減らないし、内臓を休めることもできる。


 毎日毎日ガツガツ食事をするより、めっさ腹が減るまで我慢して食べたほうが本当はいいのだよな。


 そうすれば胃や腸の修復もできるわけだし。


 しかも、炉で火を焚いている竪穴式住居は20度前後に気温は保たれるから、案外温かい。


 とは言えずっと何もしないでダラダラ寝るだけだけというのも暇なので、こういう時期には貝や骨や木を削って弓矢や櫛や装飾品や日用品を作ったリする。


 土器は作成時に水を必要とするから春や秋などのもう少し過ごしやすい時期に作ることが多い。


 まあ、土器はなんだかんだで壊れやすいから壊れたら作るけどな。


 そして今は櫛を作っているところだ。


 平らに削った木をナイフでさらに削って櫛にする。


 もちろん木工用の刃物が少い縄文時代では現代のような目の細かいものは難しいが、ちゃんと櫛などを作ることはできるんだ。


 其れに赤漆を塗って腐食防止兼装飾とすれば出来上がりだ。


 俺は出来上がった其れをイアンパヌに見せる。


「こんなもんでどうかな?」


「ありがとう、とっても嬉しいわ」


 そして上の娘は物欲しそうな目をしている。


「お前さんもほしいか?」


「はい、私にも欲しいです」


 まあ、この時代の櫛は髪をすくというより、髪飾りとしての意味合いが強い。


 女の髪へのこだわりはいつでも変わらないってわけだ。


「わかった、ちょっと待っててくれ」


 俺はイアンパヌに作ったものより小さな櫛を同じように木を削って作り、赤漆を塗って外見を整える。


 漆が乾けば完成だ。


「ほれ、おそろいだぞ」


「わあ、ありがとうございますお父さん」


 娘はとても嬉しそうだ。


 なんだかんだでこの時代でも男は女に弱い、其れが妻であれ娘であれな。


「とーしゃん、僕もなんかほしいでし」


「お前さんもか、うーんお前さんは何がほしい?」


「弓が欲しいでし」


「弓か、分かった待ってろ」


 息子用に弓を作るとしても、大人と同じものは引くのは無理だが、練習用に小さな弓を作ってやることはできる。


 子供がちゃんばらごっこが好きだったりするのは大人へのあこがれでも在るんだろう。


 そして弓は狩猟のための一番良く扱われる道具でも在るから、その弓を持って弓を引けるようになるのは、男の子供のあこがれでも在るわけだ。


 乾燥した黄櫨(ハゼノキ)の枝を削って穴を開け、麻ひもを弦として張ってやればいい。


「ほれできたぞ」


「わーい、とーたんありがとー」


 早速弓を引いてみる息子だが、前に上げたときよりちょっと強い弓にしてある。


「うーん、うーん、うまく引けないでし」


「俺の使ってるやつにちょっと近くなったからな」


「わかったでし、僕頑張るでし」


 まあ、同じ強さじゃ面白くないだろうし、力もつくんじゃなかろうか。


 其れが終わったら俺はイアンパヌの結い上げた髪の毛を解いて櫛で梳いてやる。


 この時代では基本頭や頭髪を洗うという習慣はないので、冬はフケやシラミなどを落とすために櫛で梳いてやるのだ。


「お前さんはお姉ちゃんの髪の毛をやってあげてくれ」


「あいでし」


「ちゃんとやってね」


「まかせてほしいでし」


 息子は上の娘の髪の毛を一生懸命とかしてる。


 なんだかんだで後頭部とかの髪の毛を鋤くのは自分じゃ難しいからな。


 男?男は短髪だから手入れなんてしないぜ。


 こうやってスキンシップを取りながら話をすれば家族の中も一層深まる。


 個人のプライバシーなんてものはない時代だが、まあ別にいいんじゃないかな?。


 それで問題になることもないしな。

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