せっかくなんで自家製の酒と酢を作るとするか
さて、そろそろ秋も深まってきたので、林で取れる秋の果物などもそろそろおしまいになりそうな、冬への移り変わりに近づいてきた。
「よし、今年最後の果物狩りに行くか」
「あい、とーしゃん」
イアンパヌと上の娘は今回は服造りのために居残り。
下の双子は小さいから当然家の中で育児中だ。
「あなたたち、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、気をつけて」
イアンパヌと上の娘が見送ってくれる。
「おう、いってくるな」
「いってきあーす」
俺と息子は毛皮の服を着込み、革の靴に、手袋を身につけて、彼女たちに手を振ってから、かごを持って林に向かう。
「よし、今日もがんばってとるぞ」
「あい、がんばるでし」
俺たちはアケビやサルナシ、山葡萄や柿、桑の実、木苺、ニワトコなどを見つけては摘んでいく。
「お、そこにあるぞ」
「あい、とーしゃん」
がんばって果物を取っていく息子。
なんだかんだで息子もたくましくなってきたな。
さて、前回は摘んでいかなかったニワトコだが、今回は摘んでいく。
ニワトコの実は一見すると赤いさくらんぼのようでおいしそうだが、青臭くてまずいのでそのままでは食えないので前回は持っていかなかったんだ。
しかし、ニワトコはアイヌでも魔よけとしても使われる神聖な木で、ハリーポッターでは最強の杖とされるくらいだし、実を酒に漬ければうまい酒になる。
ヨーロッパでは現代でもサンブーカというリキュールにされているくらいだ。
「ほれ、のどが渇いただろうしこれでも食べろ」
「あい、ありがとでし」
熟れて実が割れたアケビをおやつ代わりに食べながら、二人でかごいっぱいになるまで摘んだら、日が落ちる前に家に戻る。
「ただいまー」
「ただいまー」
「お帰りなさい」
「お帰りなさーい」
家族みんな揃ったら、夕食。
前にとって干した鮭を干したきのこと一緒に地面に穴を掘って、焼いた石の上に草を敷いて葉っぱで包んで蒸焼きにして食う。
「うん、蒸し焼きだと、干した鮭でも水分が適度に戻るしうまいな」
「それにきのこにも汁がたっぷりね」
「おいしいね」
「うん、おいしー」
おいしいものを食べてみんな笑顔になる、そしてさっさと寝る。
縄文人は早寝早起きなのだ。
さて、日があけて翌日、今日は昨日拾ってきた果物を酒や酢にするための加工準備だ。
まずは、桑の実、木苺、サルナシ、ニワトコ、マタタビなどは天日で干して乾燥させる。
山葡萄は竹につめて、ぎゅっと太い棒を押し込んで汁を絞る。
皮ごとつぶせば赤いぶどうジュースだ。
「お前たち、ちょっと飲むか?」
俺は二人の子供に聞いてみる。
「飲みたいです」
「のみたーい」
「じゃあちょっとずつな」
竹のコップに少しずつぶどうジュースを分けてやる。
「すっぱーい、でもおいしい」
「すっぱー」
そういいながら子供たちはおいしそうに飲んでるな。
無農薬で天然のぶどうジュースだ。
そしてそのぶどうの汁を煮沸消毒した土器に移し変えて一月ほど発酵させればワインになる。
ブドウの果実には自然酵母が取り付いてるので、糖分を含む果汁と酵母が交わることで自然にアルコール発酵が始まるわけだ。
それとは別に乾燥させた桑の実、木苺、サルナシ、ニワトコ、マタタビは熱湯で煮出して、麻の布で濾して、これもひと月ほど発酵させる。
これもワインと原理は同じ、そうすればニワトコ酒になるわけだ。
柿は柿酢にする。
方法は簡単で熟した柿のヘタを取って土器に入れて時々かき混ぜるだけだ。
柿の表面についている酵母菌が働いて、柿を発酵させ、最終的には酢に変えてくれる。
柿の酵母菌も柿の皮の表面に付いているので、皮はむかずに基本的には洗わない。
酵母菌が元気に働いて順調に発酵が進んでいけば酒になったあと酢になる。
土器の口になるところに麻布をかぶせて麻ひもで結わえる。
そしてそれを地中に埋めて保管する。
1週間ほどしたら開けてみてカビが生えていたらカビの部分を取り除いて、棒で全体をつぶすようにかき混ぜ、全体に酵母菌を行き渡らせることで、雑菌をころす。
3日に1度くらい開けては、全体に酵母菌を行き渡らせるためにかき混ぜる。
完成まで3ヵ月ほどかかるはずだからできるのは冬だな。
基本的に酒と酢の製造方法は同じで発酵期間の長さでアルコールは酢に変わるわけだ。
「まあ、なかなか時間がかかるが、できるのが楽しみだ」
「そうなの?」
イアンパヌが聞いてくる。
「ああ、酢ができればまた味付けの方法や保存の方法が増えるからな」
「それは楽しみね」
魚やタコイカを酢で〆たりするとなんだかんだでうまいからな。
ああ、ちなみに現代では自家製酒の製造は禁止だから作ったらだめだぜ。
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