骨髄のスープは美味いジャガイモの麺もうまい

 さて、昨日の雲呑もどきは結構うまかった。


 しかし、スープが塩だけというのはやっぱりちょっと物足りない。


「やっぱ出汁がほしいよな……」


 出汁というと、現代では味の素のように科学的に生成されたグルタミン酸などのアミノ酸が多いが、それ以外にもだしが取れる食材はたくさんある。


 関東では鰹節、関西では昆布が基礎となることが多いが、それに加えて煮干しや椎茸、野菜、魚の粗、鶏肉やスッポン、ウミガメ、貝や貝柱、海老などもそうだ。


 ラーメンなどでは鶏ガラや豚骨も使われるな。


 さてこの時代では北でしか取れない昆布は無理、鰹節を作るのも今は難しい。


 カツオ自体は取れないわけではないんだが、無毒性の麹カビがあるかなという問題が在るんだよな……。


 蜆や浅蜊などの貝のスープはたしかに美味いが、秋だとそれらを取るのは難しい。


 貝柱といえばホタテだが、これも北の冷たい海でないと取れないので難しい。


「豚の代わりに猪の骨ならどうだ?

 まあ鹿の骨でもいいか」


 猪や鹿はこの時代における代表的な肉だ。


 骨は骨で色々加工して使ったりしてるが、出汁に使っても別に怒られるようなものではない。


「よし、試してみるか。

 今日は猪狩りにしよう」


 イアンパヌたちに穀物や芋の収穫を任せて、俺はワンコ達を引き連れて猪を狩りに行くことにする。


「よし、頼むぞお前たち」


 ”わんわん”


 人間だけでは難しい狩りも、犬がいるとだいぶ楽になる。


 弓を手にして、ワンコ6匹と一緒に山に入る。


「お前ら猪相手に無理して、怪我しないようにしてくれよ」


 ”わんわん”


 ワンコたちは尻尾を振りながら、ひと吠えした。


 まあ、無理はせんだろうと思うがな。


 ワンコの中で一番大きいやつは、慣れた様子でイノシシが地面を掘り返した跡を探し当て、地面についた臭いや残っている糞を辿っている。


 しばらくしてワンコたちが一斉に走り出した。


「よし、頼むぞ」


 俺も吠え声の聞こえる方へ走り出し、後を追いかける。


 イノシシの巣穴からイノシシを追い出し、吠えたり足に噛み付いて足止めをするのが、ワンコたちの役目だ。


 あまり大きくない猪をワンコたちが、左右を挟んでほえたてながら足止めしている。


「よし、いいぞ」


 俺は弓に矢をつがえて、イノシシに向けて矢をはなつ。


 イノシシはバタリと倒れ、なんとか仕留めることができたようだ。


「ふう、なんとかなったな」


 倒れた猪の後ろ足を縛り、首の頸動脈をナイフで切って、さらに腹からナイフを入れ、内臓を取り出したら、沢の水の中に投げ込む。


 秋口の冷たい水で冷やすと、あっという間に全身が冷えるので、矢傷から血液に入り込んだ腐敗菌の活動を抑えつつ、血抜きもできる。


 こうすれば血の中のブドウ糖をエネルギーにして増える、腐敗菌の影響を最低限に抑えられ生臭さも減らせるわけだ。


 十分血抜きもでき、肉が冷えたら担いで持ち帰る。


 重さは30キロぐらいかね、これなら一人でも担いで持ち帰ることはできるな。


「ただいまかえったぞ」


「とーしゃんおかえりなさい」


「おかえりなさい」


「おかえりなさーい」


「今日はイノシシの肉で鍋だな」


「わーい」


 今日はイノシシ肉とキノコの鍋だな。


 骨のスープは明日にしよう。


 さて翌朝、昨日の時点で皮や肉は外して在るんで残ってるのは骨だけだ。


 まずは骨に熱湯をかけて、ざっと残っている肉の血などを取り除く。


 次は骨を叩き割らないとな、石斧で思いっきり叩いて骨を割り砕く。


「よし煮込み開始だな」


 お湯を沸騰させた鍋に一度熱湯をかけ割った骨をどんどんほおり込む。


 すると温度が下がるのでそのまま沸騰させないように煮込む。


 くさみ抜きのために一緒に切ったネギとしょうがを加える。


 あとはひたすら灰汁を取りながら煮る、骨に残った肉が全て勝手に外れ、脊椎がバラバラになり、頭部の中身が自然に空っぽになるくらい煮る。


 これだけで半日が終わるが、まあ美味いスープのためだ。


「なんかいいにおいでし」


「ほんと、美味しそうなにおい」


 スープをさっそく味見してみると、おう、超絶美味だ! 


 とんこつスープと比べて出汁が澄んでいるのに、旨味はソレをはるかに超えている。


「よし後は麺と肉だな」


 せっかくなのでジャガイモ麺(ニョッキ)を作ってみよう。


 ジャガイモをゆでて丁寧にマッシュポテト状に潰したあと、これに小麦粉を混ぜ、耳たぶ程度の硬さになるまでこねる、濡れ布をかけ15分ほど休ませ、棒で平たくのばしたら好みの太さに切る。


 これで麺は出来上がり。


 猪肉はチャーシューっぽくしよう。


 肉の両面に竹串で穴をあけ、熱が通りやすくして、塩を振って肉に揉み込んだら、糸で巻いてヌクを丸め、柔らかくなるまで煮る。


 其れをスライスして火でざっと焼き目をつけたらチャーシューもどきが完成。


 後は麺をたっぷりの湯で5分ほど茹で、茹で上がったら石の丼によそったらスープを掛けて、刻みネギとチャーシューもどきを載せればOK。


「よしできたぞ、みんな食ってみてくれ」


 まずはイアンパヌ。


「ええ、いただくわ……わあ美味しい」


「ほんと、おいしー」


「おいしーでし」


「いつもすみませんね」


 子どもたちや下の双子の面倒を見てくれてる女性にも大評判だ。


 やっぱり人間長い間骨髄を飲んで生き延びてきたことも有って、本能的にこの味を好むんだな。


「うう、やっぱうめえ

 麺は腰があるしな」


 ジャガイモ麺は冷麺などに使われてるが独特のコシの強い食感がある。


 これはこれで小麦粉のみの麺とはまた違って美味しい。


 ジャガイモと言っても馬鹿にできないのだよ。

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