秋の芋掘り

 さて、秩父から持ち帰ってきた銅を使って、子供用の小さめのシャベルを2つと、大人用の大きめのシャベル2つを作った俺は家族にいった。


「明日、畑の芋を掘りに行こう」


 イアンパヌは勿論賛成してくれた。


「そうね、そろそろ取りに行きましょう」


 子どもたちは不思議そうにしている。


「畑でしゅか?」


「おいも?」


 俺は子どもたちに教える。


「ああ、この前ほった白くて長いやつじゃなくて丸っこいやつや、紫のやつもあるんだが、予め俺たちがうえたから場所はわかってるんだ。

 今度は掘るために便利なやつも父ちゃん作ったし、折れないとおもうぞ」


 そういうこと共たちはニコニコしていた。


「はい、でし、おいもをがんばってほるでしゅ」


「おいもー」


「良し、じゃあ出かけよう。

 みんな準備してく入れ」


 俺とイアンパヌは、芋を入れるための背負いかごと水を入れた竹の水筒、子どもたちには予めシャベルも渡してやる。


「とーしゃありがと」


「ありがとー」


「じゃあいくぞ」


 俺達は焼き畑に向かった。


 畑には芋の葉っぱが青々と茂っている。


 ネギも無事に育ってるな。


 その他の穀物もちゃんと育ってる。


「よーし、じゃあ始めるか。

 まずはだな」


 と俺はじゃがいもを指し示す。


「この葉っぱの周りを少しほって後はこうやって引っ張れば……」


 ずぼっとじゃがいもが抜けて出てくる。


「こうやって取れるぞ、じゃあ、お前たちもやってみてくれ」


「あーい、やってみるでしゅ」


 娘が俺の見よう見まねでシャベルで土を掘り返して、引っこ抜こうとするがなかなか出てこない。


「んーまだちょっと難しかったか?」


「だいじょうぶでしゅ、あししにもできるでしゅ」


 ウンウンとうなりながら、芋を引っ張る娘、少しずつ抜けてきているようだ。


「えーい」


 ズボッとじゃがいもが抜けて、娘はひっくり返った。


「おーい、大丈夫か?」


 ひっくり返って目をパチクリさせていた娘だが、起き上がってにかっと笑いながら芋を差し出してきた。


「とーしゃ、おいもでしゅ、ちゃんと抜けたでしゅよ」


「おー、よくやったな」


 俺は得意げな娘の頭をよしよしとなでた。


 一方の息子だが、流石に数え2歳、現代の1歳にはちょっと芋を引き抜くのは無理だろうから、手を添えて一緒に土を掘り、一緒に芋を抜いてやる。


「とー、いもー」


 息子も芋が抜けてやっぱり嬉しそうにしている。


「よしよし、よくやったぞ」


 息子もなでてやると、嬉しそうにわらった。


 大人がやってることを真似するだけでも、十分楽しいんだよな、こういう子供は。


 2年の歳月が経って、じゃがいもとさつまいもは十分に増えていた。


 関東の火山灰の痩せた土地でも、これらの芋は十分に育つのはありがたい。


 無論もとからあった里芋や山芋も焼き畑で育ててるから、そういった芋も食えるが、さつまいもの生命力には驚かされるな。


 ネギも無事育ってるが、ネギはどっちかというと薬のように使ってる。


 風邪を引いたら焼いたネギを首に巻くといいとか、尻の穴に刺すといいというのは単なる迷信ではなく、殺菌作用や血行を良くする作用があるからだ。


 熱が出たら濡れた布で頭や首を冷やしたりといった対処をしたり、焼いたネギを首に巻いたりするだけでもいくらかは死亡率は下がる。


 原始時代では病気は病魔のもたらすものと考えられていたから、ネギは病魔の嫌うものと考えられているようだ。


 吸血鬼がにんにくを嫌うとかいう迷信は、案外こういうとこから来たんじゃないかな。


 それはともかく俺たちはじゃがいもやさつまいもをほって引っこ抜き、背負いかごに入れて行く。


 かごがいっぱいになれば芋掘りは終わりだ。


「よし、そろそろ帰るか」


「ええ、そうね」


「はい、とーしゃ」


「あい」


 皆ほくほく顔で村へ帰る。


 農耕社会のように、辛い農耕作業はせずとも食べ物に不自由しないというのはありがたいよな。


「さて、どうやって食うかね」


 この時代は基本焼くか煮るかしか無いのだが、たまには蒸してみようか。


「ま、ちょっと手間はかかるがたまにはいいだろ」


「ええ、そうしましょ」


 先ずは河原で穴を掘りそこに握りこぶし大の石をたくさん穴にいれる。


 穴をほるのは俺でイアンパヌと子どもたちは石を持ってきてもらう。


「えっさ、ほらさっと」


「はい、石を持ってきたわよ」


「とーしゃ、いしでし」


「いしー」


「おー、ありがとな」


 穴の底に石を敷き詰めたら石が熱くなるまでそのうえでまきをくべて火を焚く。


 火はいちいち起こすのは大変だから村の家からもってくる。


 ぱちぱちと火がはぜて石が焼けていく。


 十分に熱せられたら笹や木の葉で包んで塩をふった芋や魚を石の上に並べる。


 このときは危ないから子どもたちはイアンパヌに抱きかかえておいてもらう。


「よっと、うまく蒸れてくれよ」


 その上に土をかぶせて、一時間蒸し焼きにする。


 一時間立ったら食材を土の中から取り出す。


 土を取り除いていくと、いい香りが立ちのぼった。


 これで芯まで火がしっかり通り、ジューシーな蒸し焼き料理ができたわけだ。


 食材をしっかり葉で包めば、土がつくこともないぜ。


「よ~しできたぞー」


「あーい、できたでし」


「あい」


「じゃあ、早速いただきましょう」


 俺達は掘り出したいもを先ずは食べる。


 この時代子どもたちに人気なのは甘いさつまいもだ。


 なんせ現代品種だから糖度は十分だ。


「あまくておいしでしゅね、とーしゃ」


「うまー」


「おお、自分で掘り出したら旨さも抜群だろ?」


「あいでしゅ」


「あい」


 一方、大人はじゃがいもだな、蒸して塩を降って食えば結構うまいぜ。


「ん、ホクホクしてうまいな」


「ええ、美味しいですね」


 鮭を蒸したものもうまい。


「ん、塩も十分しみてるし、身が柔らかくていいな」


「とーしゃ、ほねとってー」


「とってー」


「おう、骨はまだ苦手か」


「にがてー」


「にがてー」


「ま、そりゃそうか、ちょっとまってな……よしとれたぞ」


「あーい、とーしゃありがとー」


「あいがとー」


 芋も量が確保できるようになってきたので、冬の食糧事情は前に比べだいぶ良くなった。


 まあ、狩猟自体は毛皮も必要だから、やっぱりやらないと駄目だけどな。

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