やっぱり帆がある船があると楽だね
さて、芋掘りの時に思ったんだがやっぱり土を掘るために金属製のシャベルくらいはほしいよな。
ということで銅を取りに久しぶりに秩父へ向かおうと思うんだが、川を登るのに櫂を漕いで川を上っていくのはやっぱり大変だ。
「ということでやっぱり船に帆をつけたいんだよな」
と入っても帆をつけるというのは大変だ。
そもそも帆柱をつけないと帆もつけられない。
「帆柱をどうやって固定するかが問題だよな……」
この時代には接着剤の種類は少ない。
一つは漆、もう一つは膠だ。
漆は防水性を持っているが接着力はさほどではなく、膠の接着力は強いが水に濡れると剥がれてしまう。
「なら混ぜてみりゃどうだ?」
今使ってる丸木舟の中央を丁寧に平たく削って、底へ帆柱と同じ大きさの穴を開け、柱を通して接着し、アパートの一階にあった工具箱からかっぱらってきた、金槌とくぎを使って、板を打ち付けてさらに上側に柱の4方向に角材をまた接着させ紐で縛り抑えとしてみた。
「ま、これならなんとかなりそうかな?」
帆に使うのは井草(いぐさ)を編んだ筵(むしろ)をつかう。
麻布に比べれば筵は重いがそれなりに丈夫で編むのも簡単だからな。
紐をつけて巻き上げられるようにしておけば最悪逆風になっても手漕ぎでもなんとかなるだろう。
まだ北風の季節じゃないはずではあるがな。
丸木舟に帆をつけて横風を受けたら横転間違いなしだからアウトリガーをつけて安定性を高める。
「じゃあちょっと秩父に行ってくるな」
「はい、行ってらっしゃい」
「とーしゃ、いってらっしゃ」
「らっしゃー」
今回もこちらから持っていくのは塩と綺麗な貝殻、これ等を手土産にして秩父へ向かう。
前までと違って背負子や背負いかご、背負袋も在るし、ネコ車もあるから荷物を持っていくのはだいぶ楽だな。
今回も村の男達にお願いして一緒に荒川を上っていくのに協力してもらう。
「ん、これはなんだ?」
流石に彼等も帆付きの船は初めてか。
「ああ、これは帆って言ってな、風を受けてすすめるようにしてみた」
「ほう、其れなら楽になりそうだな」
今回秩父に向かうのは俺を含めて男4人、塩や腕輪などに加工するためのきれいな貝殻、荷物を運ぶための木造の猫車や採掘用の石斧などを船に載せたら早速出発だ。
帆を広げると、南風をうけて東京湾を船はするすると北上していく。
「おお、たしかにこれは楽だな」
「ああ、うまく行ってよかったぜ」
うまく行かなかったら船が重くなった上、ひっくり返りやすくなるだけだからな。
船は古入間川に入り帆を斜めにしながら風を受けて進み、俺達は櫂を漕いで方向を細かく調節しつつ、川をあがっていく。
日暮れ前に岸辺に丸木舟を上げて近くの集落に塩を渡して一泊する。
翌日ずっと西に向かって進んでいた船を荒川に向けて北に分かれる方へ進めば、やがて秩父に入る。
丸木舟を陸に上げて、もう一泊しそれぞれが背負子などに荷物を載せて山道を登っていく。
土器を抱えていた前に比べればだいぶ楽だな。
ひたすら山道を登っていくとようやく洞窟についた。
「よし、ついたか」
鹿庭洞窟の村長に挨拶をする。
「お久しぶりです。
村長また銅や石灰岩、あとあれば翡翠や琥珀を譲っていただきたいのですが」
村長は微笑みながら俺達を歓迎してくれた。
「まあ、たくさんのお塩ですね。
ありがとうございます。
大丈夫ですよ。
それからこちらでも少しずつ集めておきましたので
どうぞ、見てください」
「其れはありがたい」
そう言うと俺達は倉庫のような竪穴式住居に案内された。
倉庫の片隅に小さな銅の鉱石が積み上げられている。
それと一緒に翡翠や琥珀もおいてある。
「こいつは助かるぜ」
「では、この塩と交換に銅はこれくらいでいかがでしょう?
後、貝殻と交換で翡翠と琥珀はこれくらい」
「ああ、其れでいいですよ。
ありがとうございます」
「いえいえ、お互い様ですから」
どうやら村人たちが河原や川の中に落ちている銅鉱石、翡翠や琥珀などを拾い集めておいてくれたようだ。
其れだけでも結構な量になっているが、今回は猫車も在るので銅はもう少し持ち帰りたい。
川沿いを歩いて和銅山へ向かい、石斧を奮って銅の鉱石を岩盤から割り出して持っていく。
「しかし、小さい鉱石も有効に利用できるように
溶かせるようにはしたいな」
結構な量の銅の鉱石を削り取って満足した俺達は銅鉱石を猫車に乗せて持って帰った。
こうして今回も無事に自然銅を手に入れることができた。
本当は錫も在るといいのだが、日本で錫を露天掘りできるような場所は西日本しかないはずだよな。
石灰岩を木の楔で切り出したらあとは帰るだけだ。
「ありがとうございました。
また来ると思いますのでそのときはよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
俺達はネコ車に銅を積んで背負子や背負いかごにもそれらを載せて秩父の山道を降りて、丸木舟のところまでおりたら後は川を下っていくだけだ。
流れに任せて丸木舟は川を下っていき東京湾に出たら櫂を漕いで行けば無事に村に帰ることができた。
そして我が家に帰る。
「おーい、只今帰ったぞ」
家族が笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい、無事でよかったです」
「とーしゃ、おかえりなしゃ」
「おきゃえりなしゃ」
俺は迎えてくれた娘を抱えるとだきあげた。
「只今、いい子にしてたか?」
「あい、いいこにしてたでしゅ」
「じゃあ、おみやげだ」
俺は娘を下ろすと秩父で取れた翡翠を手渡した。
「きれー、ありがとでしゅ、とーしゃ」
「あらあら、私には?」
「ああ、イアンパヌのぶんももちろんあるぞ」
俺はイアンパヌに琥珀を手渡した。
「まあ、ありがとうね、あなた」
息子は抱え上げて高い高いしてやるとキャッキャと笑う。
みんな喜んで何よりだ。
この時代でもキラキラ輝く物は女は好きだからな。
まあ、あんまり固い宝石は加工できないから宝石などの種類はごくごく限られるけど。
さて、村に戻ってきた俺は銅の溶解加工に挑戦する。
銅のメリットは石と違って加工性に優れていて、様々な形を作りやすいということだ。
ナイフにしても切れ味そのものはともかく石製より長持ちするし、鉄と違って耐食性もある。
銅を溶かすにはそこまでの高温は必要ないが、流石にふいごは有ったほうがいいから木と革を使ってふいごも作る。
あとは薪や木炭に充分な空気を吹き込むことで銅を溶かすのは可能だ。
そして珪素分の多い充分に焼いた土器なら、その熱に耐えるはずだ。
粘土を四角く固めて、焼くことでレンガにし、そのレンガを重ねて周りを覆うことで溶鉱用の炉を作って熱を逃げにくくする。
その中に小さな銅の鉱石をたくさん入れた土器を入れて薪をもやし、ふいごで空気を送ってやる。
真っ赤にもえあがる薪が炉を激しく熱する。
「あちちち、こいつは大変だな」
しばらく其れを続けていたら、うまく銅が溶けてくれた、下の方には溶け残った石灰や鉄などが在るはずだから、其れはまあ捨てるしかないな。
十分冷えたら土器を割って銅を取り出し、石床と石のハンマーで取って来た銅を叩いて伸ばし、シャベルを作ってみる。
「ん、形はいい感じだけど使い勝手はどうかな?」
土をほってみれば木の堀り棒よりはやっぱり使いやすい。
しかし石にぶつかると先が曲がってしまう。
「うーん、やっぱり銅だと柔らかすぎだよな」
今度は叩いて伸ばし、鍋や水差しを作ってみる。
「やっぱ、調理器具や食器にしたほうが使いやすいか
まあ気を付けないと熱で溶けたり曲がったりするけどな」
だが銅は土器と違って割れないと言うメリットも有る。
のんびり考えてみれば他にも使いみちは見つかるかもな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます