子供は遊びながらいろいろ学んでいくもんだ
さて、翌日は晴れたので、今日は海へ娘と一緒に潮干狩りに来てる。
娘の名前は”アシリレラ”意味は「新しい風」だ。
とはいえ、普段は名前は呼ばないわけだがな。
娘は麦わらで編んだ帽子に、麻のワンピースっぽい服を着て、わらで編んだ草履をビーチサンダル代わりにして砂の熱さから足を守っている。
竹で作った水筒を、麻ひもで肩からかけて、背中には麻で作った、小さな背負袋を背負ってる。
ここには2年前に立てた、製塩所兼漁網などの、収納場所兼休憩所になってる大型竪穴式住居ももちろんあるぜ、まあ、ちょくちょく補修とかはしてるけどな。
ちなみにあいかわらず、男は褌に似た下着のみか、その上に長く編んだ麻布の真ん中に頭を通せる穴を開けたものを貫頭衣のようにかぶって、腰で紐で縛っただけのものだがな。
女の方の服装は、少しおしゃれになってきてるって感じだ。
娘は海を見て目をキラキラさせてる。
まあ、初めて見れば感動するよな。
海をゆびさして俺に向かって嬉しそうに言う。
「とーしゃ、水がいっぱー」
娘が元気に育っているのは嬉しい。
俺は頷いて答えた。
「ああ、水がいっぱいだな、冷たいから気をつけろよ」
それから娘は恐る恐る水に足をつけて脚を引っ込める。
「ちべたー」
「な、冷たいだろ」
「ちべたかった」
えらいえらいと頭をなでて俺は言う。
「だから気をつけるんだぞ。
よし、んじゃ貝を探そうか」
娘はこくと頷く。
「かいーどこ?」
「貝はな、砂の中に潜ってるんだ」
俺は砂を掘ってみせた、しばらくするとハマグリが出て来る。
「いたー」
掘った穴から出てきたハマグリを嬉しそうに指差す娘。
「よし、お前さんもやってみるといいぞ」
「わかったー」
小さな手で娘は砂を掘ってる。
「かい、いたー」
「おお、いたな」
嬉しそうに掘った場所からハマグリを取り出す娘の頭をなでてやると娘は嬉しそうに目を細めた。
「とーしゃ、あい」
娘が渡してくれたハマグリを受け取って、土器に入れる。
何時間かすればいっぱいに取れた。
「いっぱい取れたな」
「あい、いっぱいー」
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「あい」
俺は娘と手を繋いで村に帰った。
「今戻ったぞ」
「もどったー」
イアンパヌが息子をおぶって麻布を編んでいた。
「あら、おかえりなさい」
彼女の笑顔を見るとほっこりする。
やっぱり帰る家があって待ってる人がいるというのは安心するよな。
「じゃあ、今日はハマグリ汁でも作るかね、
とその前に髪の毛を洗ってスイてやらんとな。
こっちにおいで」
「あい、とーしゃ」
とておてと俺の元へやってくる娘の髪の毛を真水で洗って麻の布でよく水分を拭き取ってから、竹を削って作った櫛で髪の毛をすいやてる。
「とーしゃ、あししもやりたい」
「ん、自分でやるか?」
「あい」
「んじゃ、はいよ」
「やたー」
娘は耳元からたれてる髪の毛を小さな手ですいてる。
髪に櫛を通すのは、髪を整えるという意味合いももちろんあるし、毛じらみを櫛を通すことで、落とす意味合いもある。
「そろそろちょっと切るか?
前髪ながいと不便だろ」
「んー?
あい」
切ってほしいのかほしくないのか微妙に判断に困るが、髪の毛が長すぎるのも目とかに悪いしな。
「じゃ、ちょっとの間じっとしててくれよ」
「あい、とーしゃ」
この時代にハサミはないから、髪の毛を切るときは黒曜石ナイフを使う。
石器ナイフの切れ味っていうのは、意外とすごくスパスパ髪の毛が切れていく。
「こんな感じでどうだ?」
「あい、いいでし」
娘は前が見えやすくなったのもあって嬉しそうだ。
「あら、私もそろそろ切ってほしいのだけど」
「はいはい、ちょっと待っててくれよ」
俺はイアンパヌの前髪も切り揃えると、彼女の髪の毛も櫛で梳いてあげた。
「ありがとう、あなた」
「いやいや、今日は子守を任せちまって悪かったな」
「いいのよ、下の子はまだ海に行くのは早いと思うしね」
「もう2年もしたらみんなで行こうぜ」
「うん、其れがいいわね」
まあ、急ぐことも焦ることもない。
俺たちには時間はたっぷり在るんだからな。
この時代は衣食住を揃えることと、それに必要な道具を作ることに、最低限の時間をさけば、後は自由だ、まあ、釣りとか土器づくりなんて言うのは、趣味と実益を兼ねたものでも在るわけだけど、女性がおしゃれを楽しむ余裕も、在るくらいだからまあ、のんびり行くとしよう。
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