すっかり忘れていたが背負って運ぶのに便利な道具を作ろうか。

 さて、とりあえず秩父の和同山から持ってきた銅で物を作れるのは確認した。


 秋に穀物を収穫するようになるまでには刈り取りのために便利な鎌を作っておきたい。


 銅鉱石が取れる場所はわかってるいるから、必要になったらまた取りに行こう。


 で、はたと思い返したのだが。


「バックパックなり背負いかごなり背負子を作ったほうが、

 遠いところから何かを運んでくるなら全然楽だよな」


 うむむ、毎日水を土器で汲んだりするのが習慣になってたから、すっかり忘れていたぜ。


 しかし毎回毎回土器を抱えて遠くにいくのは腕が疲れてすごく大変だし、量的にも大した量は運べない。


 その点背中に背負える道具があれば随分楽になるはずだ。


 なら、まずは背負子から作ろう。


 背負子は適当な縦の棒になる長さの木の棒の長いもの2本、横の棒になる短い棒2本と適当な大きさの革と紐があれば作れる。


 作り方はとっても簡単だ。


 まず自分の身体の幅に合わせて2本の縦棒を並行に並べ、そこの2本の横棒を角縛りで固定し、背あて部分に革を当てて、紐ですき間なく巻き、幅広いショルダーベルトになる紐を編み上げてそれを取り付ければ完成だ。


 縦棒になるものにV字の枝がついていればその下に板を引けばもっと物を載せるのが楽になる。


 この時代ずっと火をつけっぱなしにするので、柴刈、要するに燃える枝を拾い集めるのは大事なのだが、これがあれば一度に持ち帰れる枝の量が増えるな。


 背中に乗せるものは背負子に縛って持ち歩く。


 試しに背負ってみようか」


「よっと、うん、いい感じじゃないか?」


 二人一組で枝を拾って背負子へのせる人間と背負子を背負う人間に分かれてやったほうが柴刈が楽になるかもな、まあ別に一人でもおいた背負子にまとめた枝を載せてから背負い直してもいいけど。


 背負子は木の枝のようなある程度の長さや大きさのあるものをまとめて運ぶには便利だが小さなものや傷つきやすいものを運ぶにはあんまり向いていない。


 山菜採りなんかをしたい場合は背負いかごがあったほうが便利なのでそちらも作ろう。


 要領は背負子と同じようなものだが背中の大きさにあわせて竹で編んだ籠に幅広いショルダーベルトになる紐を編み上げてそれを取り付ければ完成だ。


 背負い籠は、昭和の時代には小学生がランドセル代わりに教科書などを入れるのに使ったり、農夫とか海女さんが野菜や魚などを入れるために愛用していたらしい。


「イアンパヌ、よければ、今度山菜を取りに行くとかはこれを使ってみてくれ」


 そう言って俺はイアンパヌに背負いかごをプレゼントした。


「ん、ありがとうね、今度使ってみるわ」


 イアンパヌが嬉しそうに受け取ってくれて何よりだ。


 朝の水汲みにも使えないかとも考えたんだが、水くみは土器を頭の上に乗せて運んだほうが早い気がする、背中に物を乗せるというのは最悪落としても大丈夫なものでないとダメな気がするんだよな。


 翌日早速俺は背負子を、イアンパヌには背負い籠を背負ってもらって山に入った。


「俺は山菜や茸を取ってイアンパヌの背中の籠に入れるから、イアンパヌは俺の背中に薪を載せていってくれ」


「うん、わかったわ」


 こうやってお互いの背中に必要なものを載せていくことでいちいち背負っているものを降ろさないで住むのはやっぱり楽だな。


 2時間ほどしてお互いに背中の物が一杯になったら山を降りた。


「後は魚でも取ってくればいいかな?」


「そうね、私はアサリを取ってくるわ」


 こうして今度は二人で海に向かった。


 魚や貝は腰に取り付けた魚籠に入れて持ち帰る。


「大漁、大漁」


「私もたくさんとれたよ」


「ああ、今日は山菜とキノコにアサリとスズキの煮物だな」


「ええ」


 土器に海水と食材を食べやすい大きさに切った食材をぶち込んで煮て食べることにももう馴染んだな。


 縄文人は四季折々の自然の恵みとともに無理のない暮らしをしている。


 背負子や背負いかごぐらいならそれから逸脱したわけじゃないと思うからウパシチリにも報告しておこうか。


 食事を終えた俺はウパシチリのところに向かった。


「あら、今日はどうしたのですか?」


「ああ、実はな……こうやって背中に背負うことで楽になるものを作ったんで報告に来たんだ」


「なるほど、其れを使えば、物を運ぶのが楽になるのですね。

 よろしければ今度皆さんにも作り方を教えてあげてください」


「了解、ウパシチリの許可も出たからそうさせてもらうぜ」


 まあ、生活の知恵は皆で共有するのがこの時代においては基本だからな。


 ま、独占する意味もあまりないんだが。

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