やっぱりそろそろ金属器がほしいな

 冬が明けて、暖かい春がやってきた。


 雪解け水による川の増水も終わっている。


 ちなみにこの時代の日本にはまだ梅・桃・桜は存在しない。


 これ等は主に弥生時代以降に稲作とともに持ち込まれたが、もしかしたら今の時代でも九州あたりになら台湾経由で中国大陸からから持ち込まれた桜があるかもしれないけど、まあ鬼界カルデラの大噴火で九州の縄文文明は一度滅ぶんで、どっちにしろ、桜などが日本の春を彩るようになるのは、まだまだ先の話しだ。


 ま、それはともかく今までは石器を使ってきたがやっぱりそろそろ金属器が欲しい。


 穴をほったり木を切ったり削ったるするのに石鍬、石斧とナイフだけだとやっぱりきついんだよな。


「確か秩父に露天掘りで精錬しないで住む採掘可能な銅山はあったはずなんだよな……」


 問題は石器で採掘可能かなんだが……多分なんとかなるんじゃないかな。


 金属は石器より固いと思うかもしれないが必ずしもそういうわけでもない。


 銅器と石器は併用されたし、人間が一番最初に加工を行った金属はおそらく銅か金か銀か隕鉄なんだが金や銀、隕鉄は基本装飾用とされたのに対して銅は農具、木を切るための斧、容器、調理器具などに使用されたはずだ。


 銅では柔らかすぎて武器としてはいまいちだったらしいけどな。


 その利用開始はトルコあたりでは9000年ほど前からとされ、エジプトでも7000年ほど前から銅や金が使われ始めたらしい。


 ちなみに青銅の利用開始は5500年位前からとされ、中国大陸で銅を道具として用いたのは5000年ほど前、青銅の文化が入ったのは4000年、鉄が主に利用されるようになったのは2500年ほど前かららしい。


 日本に鉄や青銅が入ってくるのは弥生時代の2500年ほど前からだが精製などが可能になったのはもっともっと後だ。


 イラン周辺のメソポタミアでは銅器の利用はもしかするともう少し早い可能性もあるみたいだけどな。


 この頃は巨石を用いた建築物や宗教的な施設が作られているからだ。


 まあ、木と石だけでも石の切り出しはできるから銅が使われた=巨石の採掘が可能になったという訳ではないんだが。


 まあそれはともかく金属器があれば今より色々と便利になる可能性がある。


 今の状態では熱して溶かしたり柔らかくした後叩いて加工するのは難しいので、そのまま鍛打したり、切削したりして形を整えるしか無いとは思うけどな。


「秩父には確か神庭洞窟(かにわどうくつ)があったよな」


 鹿庭洞窟は荒川の侵食によってできた石灰岩の天然洞窟で、天然の住居として古くから利用されてきたらしい。


 もともと石器時代には洞窟をすみかとしていたからその頃から使われていたかもな。


 ついでに父部周辺は石灰岩も取れるから畑にまくために石灰ももらってこようか。


 山奥では塩が不足してるだろうから塩と綺麗な貝殻を手土産にすればいいかな。


 銅や石灰と交換するための塩の製塩や貝殻を拾い集めて十分な量が手に入ったら村の男達にお願いして一緒に荒川を上っていくのに協力してもらう。


「今回は外洋には出ないから普通の船で十分だな」


 バランスをとるために浮きをつけた船のほうが外洋では安心だが、川ではじゃまになるだけだしな。


 今回秩父に向かうのは俺を含めて男4人、いくらか活動しやすくなったとは言え、今でも基本的に女は集落からそんなに離れることはない。


 さて交易品の塩や腕輪などに加工するためのきれいな貝殻などを詰めた土器に革で蓋をして紐で縛り、石斧なども丸木舟に乗せて出発する。


 皆で櫂を漕いで多摩川河口を離れると東京湾を北上して、古入間川に入り櫂を漕いで、川をあがっていく。


 日暮れ前に岸辺に丸木舟を上げて近くの集落に塩を渡して一泊する。


 翌日ずっと西に向かって漕いでいた船を荒川に向けて北に分かれる方へ進めば、やがて秩父に入る。


 丸木舟を陸に上げて、もう一泊しそれぞれが土器を抱えてその後は山道を登っていく。


 いくらか軽くなったとは言えやっぱり土器を抱えて山道を上がるのはしんどい。


 ま、俺も歩き回るのになれたから箱根のときほどは大変じゃないが。


 途中で何度か休憩をはさみながら、ひたすら山道を登っていくとようやく洞窟についた。


「あー、やっとついたか……」


 土器をそっとおろして、俺は地面にへたり込んだ。


 鹿庭洞窟の村長もやはり女性だった。


「まあ、たくさんのお塩ですね。

 ありがとうございます」


「その代わりここらへんの山で白い石と赤い石みたいなものを

取らせてほしいんだけどいいかな?」


「はい、構いませんよ」


 俺達は秩父の山中に入る許可を得て、翌日から山に入って石灰や銅を探すことにした。


 このあたりには熊も出るので、洞窟の住人に道案内をしてもらって和銅山を探すことにする。


「秩父のどのあたりだったかな……結構川沿いのはずなんだけど」


 そもそも地形が一緒とも限らないわけだが、上流の地形は下流ほど大きくは変わってないはずだ。


「川沿いの様子を見て探すしか無いな」


 山麓の渓谷を歩いていくと、渓流の流れの中に赤い自然銅が落ちているのが見える。


 このあたりに在る銅は純度90%を越える優良な自然銅で、結果から言えば和銅山は洞くつから15キロくらい離れた場所にあった。



 むき出しになった銅の自然鉱石があるのは本当にありがたい。


「よし、じゃあ適当に割って持っていくとするかね」


 石斧を奮って銅の鉱石を岩盤から割り出していく、比較的脆い石灰岩の中に在るのも幸いしたな。


「とりあえず今回はこれくらいこれ取れればいいかね」


 それなりの量の銅を削り取って満足した俺は其れを土器に入れて持って帰ることにした。


「目当てのものが見つかったようですね」


「ええ、ありがとうございました」


 俺は和銅山の場所を教えて同じものを取っておいてもらいたいことを伝えた。


「そんなに役に立つのでしょうか?」


「ええ、ちゃんと加工の目処がつけばですがね」


「分かりました、また来られた際には塩と交換させていただきましょう」


「ええ、よろしくお願いいたします」


 こうして居れば無事に自然銅を手に入れることができた。


 後は石灰も切り出したら帰るだけだな。


 土器を抱えて秩父の山道を降りて、丸木舟のところまでおりたら後は川を下っていくだけだ。


 丸木舟を漕いで東京湾に出た後無事に村に帰った。


 そして我が家に帰る。


「只今帰ったぞ」


 イアンパヌが笑顔で迎えてくれた。


「おかえりなさい、無事でよかったです」


 俺は迎えてくれたイアンパヌをギュッと抱いた。


「ああ、やっぱりこうすると帰ってきたってことを実感するな」


 さて、村に戻ってきた俺は金床ならぬ石床と石のハンマーで取って来た銅を叩いて伸ばし、ナイフで削ってまずは斧を作ってみた。


「ん、形はいい感じだけど切れ味はどうかな?」


 木の枝を切ってみると最初は切れ味はいい、だがすぐに切れ味は鈍ってしまう。


「うーん、やっぱり銅だと柔らかすぎか」


 しかし青銅を作るにはまず銅を溶かせるだけの温度が出せる溶鉱炉と錫が必要だが東日本には露天掘りで錫が取れるような場所はあったっけ?


 まだまだ金属をまともに加工利用できるようになるのは時間がかかりそうだ。


 実際青銅の木工器具が普及するまでは金属器と石器は併用され続けたしな。

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