秋の雑木林は食料の宝庫
さて、秋になると雑木林にはたくさんの堅果(ナッツ)が実をつけ、野生化した芋も大きくなる。
2万年ほど前の石器時代の移動生活から1万7千年ほど前にオーストロネシアの焼き畑や植林、土器の技術を持った南方の人間がやってきたことによって始まった、集落の発生による定住生活は、植生にも大きな変化をもたらした。
石器時代では磨製石器の石斧などで丸木舟などを作ったりはしたが、基本的には周辺地域の森林を開拓するまでに至らなかった。
この時代ではアク抜きができなかったのでクルミなどはともかくどんぐりを食べることもできなかったようだしな。
しかし、定住をするようになった縄文人は焼き畑を行うことで居住する周辺の照葉樹林や落葉樹林を切り開いていき、やがて焼かれたクリが美味いということに気がついて、作物が育たなくなった場所に、クリやクルミなどを挿し木や接ぎ木を行って人工的に植林していくことで木々の間の開けた林が出来上り、光が当たるようになるとその下草にも影響を与え、ワラビ、ゼンマイ、フキ、クズ、ヤマイモ、里芋、自然薯、ノビルなどの春に取れる野草山菜や芋なども縄文人の主要で安定した食料資源となった。
こうして雑木林という新しい食料を得られる環境を縄文人は創出していき、集落の側からそれらは広まっていく。
ちなみにクリは生命力の強い方ではないので自然ではクリばかりが生えている林というのはあり得なかったりする。
縄文時代の建築材や燃料材はクリが大半でこれはクリの木の育成が早いことによるわけだ。
そしてこの季節は落ちているクルミやクリ、ドングリ、栃の実、楢の実などの堅果を拾い集める時期でも在る。
堅果は穀物に比べればそこまで長期保存に向いているわけではないが、それでも翌年の春くらいまでは十分に持つ長期保存ができる食べ物だ。
だから今のうちにたくさん集めるってわけさ。
これ等の樹の実や鮭なんかは熊も食べるから山奥の方だと熊に遭う危険も高くなるが、このあたりには熊はほとんどいないからまあ大丈夫だろう。
そして俺とイアンパヌはいま雑木林で竹で編んだ籠を持ってきて今落ちてるそれらを一生懸命拾ってるところだ。
「とりあえず冬が過ごせる分はとっとかないとな」
「ええ、でもたくさん落ちてるから何回かくれば大丈夫だと思うけどね」
「ああ、まあ一回で全部取ろうってのも無理だし、まあ焦ることもないよな」
そんな話をしつつ俺達はちまちまと拾い上げていく。
まあ、魚をとるよりは全然楽だが、中腰だと腰が痛くはなってくるな。
日が傾いてきた頃には籠は一杯になり俺達は集落へ戻った。
そしてまた翌日も取りに行く、今日は自然薯も探すために掘り棒も持ってきた。
「芋がうまく見つかるといいけどな」
「まあ、ドングリとかを探すついでに見つかればいいわけですから」
「まあ其れもそうだよな」
俺達は雑木林の中を芋の蔓や葉が生えてないか、キョロキョロ視線を移しながら探していたがやがて其れが見つかった。
「お、あったあった」
「え。あ、ホントだね」
俺は堀棒で芋の周りを慎重に掘っていく、自然薯はかなり長いので無理に抜こうとすると折れてしまうのだ。
「丁寧に慎重にっと」
この時代には金属製のシャベルやスコップなどというものはないので、木の先を尖らせた堀棒でほっていくしか無いんだが、だいぶ大変だったりする。
時間はかかったが穴をなんとか掘り進めて、自然薯を掘りとることに成功した。
「や、無事に折れずに取れてよかったぜ」
「うん、良かったね」
その後、籠が一杯になるまで樹の実を拾い集めて、日が暮れる前には集落に戻った。
さて、クリやクルミ、ドングリでもスダジイ、マテバシイ、ミズナラ、コナラの実などは生でも一応食べられる。
また、 クリは甘くて最初は美味しいが毎食では飽きてしまう、しかしドングリは毎日食べても連食してもクリより飽きがこない。
クリはどちらかと言うとデザート的に食べたり、ドングリなどに甘みをつけるために混ぜたりして、基本はドングリや栃が主食だったりする。
まあ、毎日毎日天津甘栗しか食えなかったらそのうち嫌になってくる気はするな。
が、ドングリや栃の実にはタンニンやサポニンと言った渋み、苦味と言った灰汁が含まれてるのでそのままでは食えない。
熊は我慢して食べてるようだけどな。
なのでアク抜きが必要になるわけだ。
これは芋に関しても同じで山芋をすりおろしたものを肌につけるとかぶれることからわかるように芋にも軽い毒が含まれているので、基本は加熱して無毒化する。
木の実はまず水の入った土器に入れて、水に沈んだもののみを食べる。
浮かんできてしまうのは虫に食われて中空になってる可能性が高いから捨てる。
うまく行けばまた木が生えてくるかもしれないがまあ無理だろう。
採集して選別が終わった実はこの時すぐに食わないもので生のまま貯蔵するものは笹や杉の葉に包んで竪穴式住居の床に埋めた土器に入れて保存する。
乾燥貯蔵する場合は、軽く煮てから、炉の周りにおいて乾燥させる。
食べるものは石斧を使って割り、カラと薄皮をはがしてから、灰汁とともに煮沸して苦味がなくなるまで水を入れ替えて繰り返し繰り返し煮ることで灰汁を完全に抜く。
アクが抜けたら石皿と石棒ですりつぶして粉にする。
粉にしたらあとは小麦粉のように調理ができるわけで、ドングリを挽いたものに野鳥の卵や、クリやクルミ等を砕いたものを捏ね合わせて四角く固め、炉の側で石を使って焼いたのが縄文クッキーだな。
栃の実はドングリ以上にアクが多いのでアク抜きは時間をかけて行う。
栃の実はひろったらすぐに外殻をむいて、水の中に2,3日つけておいて殺虫してから、天日で一週間干して、さらに影干しで40日間ほど干す。
こうして殺虫して乾燥させると常温で貯蔵ができるようになる。
食べるときは乾燥させた栃の実全体に熱湯をかけて2,3時間おいて皮を柔らかくさせてから、皮をこそげとる、この皮が固くて大変なんだがな。
麻の袋に入れて、川の流水で2週間ほど晒し、一部は切り刻んで麻の袋に入れて土器に組んだ水の中に浸す。
刻んだ栃の実を水に入れた途端、水の色が黄色く変色し、大量の泡が土器に浮かんでくる。
その水は他の土器に入れ替えて洗剤にする。
残りは他と同じように麻の袋に入れて、川の流水で2週間ほど晒しておく。
2週間ほど流水に晒したら、土器に入れて、栃の実の約2倍の量の木灰をかけて熱湯をたっぷり注いだ後、2昼夜そのままおいておき、3日めになったら取り出してかんでみる。
苦味が残っていたらまた熱湯を注いでえぐみが残っていればまた熱湯を注いで2昼夜そのままおいておきを繰り返して、えぐみがとれたら、灰をながして栃の実をとりだすことでやっと食えるようになる。
「ん、うまいな」
「ええ、苦労して作ったかいがありましたよね」
俺とイアンパヌは縄文クッキーを食べて笑いあっていた。
また、芋は鮭トバと一緒に煮て食べたぜ。
食料はまだまだ残ってるし、しばらくはのんびりできるだろうな。
食いたくなったら食料を探し其れ以外は基本のんびり過ごす、縄文時代は究極のスローライフの時代だと思うぜ。
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