芋の収穫と鮭の遡上

 さて、夏が終わり秋がやってきた。


 焼き畑で育てていた雑多な作物も収穫の季節だ。


「さて、芋やネギやかぼちゃはちゃんと育ってるかな?」


 ちなみに陸稲、大麦、小麦、稗、粟、黍、蕎麦といった作物はちゃんと育ってるのだが……。


「こりゃまた随分穂が少ないな」


 現代の穀物というのは長年の品種改良も有って、稲穂などに沢山が種籾がなっているのだが、この時代はまだまだ原種に近いから、穂になってるのは何粒かでしか無い。


 まあ、たくさんとれたとしても石器では脱穀が大変では在るのだが。


「これじゃたくさん植えてやらないと農耕だけじゃ食っていけないだろうな……」


 農耕社会がはっきり文明を示すのは6千年ほど前からだったはずだが、農耕そのものの始まりは考えられていたよりだいぶ早かった。


 東洋では1万5千年ほど前、中東では1万2千年ほど前ぐらいから農耕の後は見つかってる。


 じゃあ発展になぜそんなに時間がかかったというかというと、作物の品種改良が進んで、旱魃や冷夏などの悪天候の年でも確実にある程度の収穫ができるようになるのにそれだけ時間がかかったということなのだろう。


 また、石鍬では土を掘り返すのが大変だから隕鉄や銅を使った農耕器具を誰かが考えたのだろうな。


 文字というのは備蓄や物々交換の商取引を記録するためなどに最初は考え出されたはずなのだ。


 大豆も取れてるから一部もらって味噌にできないか試してみる。


 大豆を一度よくにてから冷まし木の棒をつかってすりつぶし、味噌と塩を混ぜて、先程大豆を煮た時の冷めた残り湯をくわえて手で握って丸め、土器の中に叩きつけるようにして空気を抜き、麻でおった晒布に塩を振ってかぶせ、木でフタをする。


 うまく発酵すれば味噌になってくれるはずだ。


「さて、芋はちゃんと増えてるかな?」


 俺はジャガイモをまず引っこ抜いてみた。


「お、ちゃんと増えてるな、なんかちっちゃい気がするが……」


 ま、ちゃんとした種芋じゃないから仕方ないんだろう、これでも原種よりは多分大きくて食いやすい方だと思うしな、食ってなくなってしまってはもったいないからもう一回植えなおしてみるか。


 むしろ寒いときのほうがちゃんと育つらしいしな。


 その次はサツマイモだ。


「おお、さすがは貧しい物の味方と言われただけのことはあるな」


 こっちもちょっと小さい気がするがちゃんと芋が増えていた。


 しかも、ジャガイモより多いぞ。


 かぼちゃも無事に実がなっていた、軽く身を叩くと中はちゃんと詰まってるようだ。


 ネギも無事に育っているな、ねぎぼうずから花も咲いて種もちゃんとできている。


 皆、水が少なくても育つ方の作物だから今の時期の火山灰がおおくて水はけが良すぎる関東でも育ったのだろう。


「問題はどうやって食うかだよな」


 特にかぼちゃは皮が硬いから黒曜石のナイフで切れるかな?


 其れに基本塩水しかない時代では味付けと言う問題もあるんだよな、うーむ。


 とりあえずジャガイモとサツマイモは種芋をかぼちゃやネギは種を取っておいて保存する分を選り分けて残りは食べることにするが食べ方は一旦考えよう。


 そして秋口に取れる魚といえば鮭だ。


 この時代多摩川にも鮭は遡上していて、平安時代では信濃つまり長野あたりでも鮭は取れたらしい。


 鮭を取るために使うのは<えり>と呼ばれる仕掛けを使う。


<えり>とは、漢字で「魚」へんに「入」と書き、魚を誘導してとるものだ。


 川の中に40cm間隔くらいに、直径5cm前後、長さ150cm前後の機の杭を斜めに川底に打ち込み、そこに萱で間を塞ぎ、サケのが遡上してくるものの一部を川べりに追い込んで、大型のタモ網や、銛などで鮭を取るわけだ。


 この漁の仕方はアイヌにそのまま残っておりテシとかウライなどと呼ばれる杭列や簗でサケをとめ、夜間に松明を灯し、突いたり、タモですくったりしてサケを捕っていた。


「よーし大漁大漁」


 川を埋め尽くすような勢いで海から上がってくる鮭をタモ網ですくい上げては〆て内蔵を取り除き、開きにして、干して鮭とばにしたり、チップで燻して燻製にして冬の間の食糧難に備えるわけだ。


 もちろん鮭を取り尽くしてしまうようなことはしないし、まあできないな。


 さて、味噌ができるかできないかは分からないが、いつまでも使わないでいるのも逆にもったいない。


「出汁はないが、味噌汁にして見るとするかね」


 新しく試作するために使ったものを覗いてもまだ味噌は残ってるしな。


 とれたジャガイモやサツマイモ、ネギを黒曜石のナイフで適当に切って、かぼちゃは石斧で叩き割り、一緒に切り身にした鮭やその骨やあらを土器にぶち込んで煮てみる。


 やがて煮えてくるとなかなかいい匂いだぞ。


「美味しそうな臭いね」


「ああ、多分美味いぞ」


 十分に煮えてから食べてみると味噌と鮭のあらから出た出汁が敷いていて十分うまかった。


「本当、美味しいわ」


「ああ、うまく出来上がってよかったぜ」


 まずかったらどうしようかとヒヤヒヤしたがとりあえずは石狩鍋風の鮭と芋や野菜の煮物はうまくいってよかったぜ。

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