縄文イヌは友達?むしろ家族
さてさて、まあこの時代には戸籍や民法のような規則による婚姻制度はないのだが、一晩をともにして相手方の母親の了承を得ることで俺は妻を持つことになった。
これによって俺は自分だけでなく奥さんの家族も積極的に扶養しないといけなくなった。
まあ、結婚したら当然のことでは在るんだが、いきなり家族が増えるのもきついものがあるな。
「まあ、頑張るしか無いんだがな」
そうなってくるとまずは食料の確保が最優先だな。
俺は食べ残しの入った石皿を持って集落の真ん中の広間に放し飼いされているイヌのところへ行った。
イヌ達は俺が近づくと嬉しそうに尻尾をパタパタ振って迎えてくれた。
ここにはつがいのオスメスと子供の縄文イヌがいるんだが、可愛いんだなこれが。
縄文犬は柴犬や秋田犬に近いが顔の作りはオオカミに近く、顔の幅も狭く、柴犬達よりは原始的でオスとメスの体格差が現在より大きい。
「おー、お前たち元気か」
頭をワシワシしてやると、一層喜ぶのがとても可愛らしい。
さて、縄文イヌは体高が35cm~39cmと小型犬に属し、ニホンオオカミとサイズが著しく異なる上、DNA分析においても在来犬とニホンオオカミは異なる塩基置換が確認されているのと、エスキモー犬や朝鮮の古代犬と縄文犬は酷似していることから縄文人がオオカミを馴化したのではなく、石器時代にマンモスやナウマンゾウを追いかけて日本に人類が来たのと同時期にいっしょにやってきたらしい。
縄文時代以前の旧石器時代の時から日本人と犬はいっしょに暮らしていたわけだ。
そして狼とイエイヌとのmtDNAの塩基置換率から逆算すると、オオカミからイエイヌが分化したもっとも古い時期は13万5千年ほど前でイヌの家畜化を行ったのはホモ・サピエンスでは無く、クロマニヨン人もしくはネアンデルタール人であったらしい。
この頃は寒冷化の影響で干ばつが起き食糧事情がかなり悪化していたらしいんだよな。
最もイギリスのボックスグローブ遺跡の約40万年前・中国の周口店遺跡の約30万年前・フランスのラズレ洞窟の約15万年前などで狼の骨は残っており、人間になついた狼が個々に飼いならされた例などは有ったようなので其れ以前から人間になつく子狼などはいたらしいけどな。
狼のパックの狩猟成功率は50%程度とかなり低く、パックの数が少ないほど成功率も下がり、かなり足の早い馬、鹿、野牛なども狩猟していたネアンデルタール人などの食べ残しを漁ったほうが楽だったろうから、イヌの場合も、まず、狩猟成功率の低いオオカミがヒトの食べ残しを食べることで人間のすぐ近くで生活を始め、好奇心が強くて警戒心が弱い子供がヒトの集落に近づいて食べ残しを直接もらうことで人間の集落に程度適応することで生活を成り立たせていったようだ、なんせ狼はれっきとした集団社会で弱いものは餌を食い逸れることも多かったようだからな。
人間も最初はもしかすると子供狼の可愛さによる愛玩目的だったのかもしれないが、結構早い段階から臭いを追わせたり、足止めさせたり、崖下に追い落としたりなどで狩猟の際にイヌが役に立つことに気がついていたようだ。
一方、ネコはヒトという地上で最も凶暴で凶悪な生物の近くで人間の庇護に預かりながら人間の生活圏内で自由にネズミやウサギなどの獲物を捕り、自由に繁殖していた状態が長かったらしい。
結果としてイヌやネコはヒトが意識的に家畜化したのでなく、イヌやネコが自らヒトの作り出した世界に適応して、結果的にヒトと共生する道を選んだようなのだが、十分に狩猟で餌を取ることがおぼつかず人間の食べ残しを食べていたイヌと人間の生活範囲で狩猟して自力で食べ物を得ていた猫の行動の差が現在でも犬と猫の性格の差に現れているらしい
ちなみにこれは鳥類ではツバメが同じことをしていて、ツバメは、人間の家の軒先に巣を作ることによって最も危険な卵や雛の時を外敵が少ない生活環境をツバメは得ることができるようにしているようだ。
イヌやネコ、ツバメ等は自分たちの形姿が人間に愛らしいと思われることを認識していたのかたまたまなのかはよくわからないけどな。
因みに羊、山羊、豚、牛、馬などの家畜化はイヌよりもずっと難しく特に牛は凶暴で獰猛な性格、馬は臆病で繊細なので家畜化されるのはなり遅かった。
イヌの次に家畜化されたのは恐らくヤギなんだが日本に山羊が定着するのはずっとずっと後なんだよな。
弥生時代に稲作農耕の導入に伴い、家畜化されたネコ・ブタ・ニワトリ・家鴨などが大陸から一緒に持ち込まれ、縄文犬とは別系統の弥生犬もも持ち込まれたが、弥生人は猟犬としてではなくではなく番犬と兼食用として犬を飼っていたらしい、古墳時代には騎馬としてのウマが持ち込まれ、その後農耕の手助けとしてウシが持ち込まれた、日本の山羊や羊のちゃんとした持ち込みは15世紀以降だな。
まあ縄文時代では内陸部ではイノシシや鹿の肥育は行われていたようだが。
「今度一緒に狩りに行くかもしれないからよろしくな」
俺はイヌにそうはなしかけながら、犬たちが俺の残飯を美味しそうに食べる様子を見ていた。
縄文犬は猪や鹿などの狩猟のパートナーとしての猟犬で、獲物の発見や追跡、噛み付いて捕獲にも深く関わる大切な役割を果たしていて、外傷や病気を負って狩りに出られなくなっても集落で大切に飼われ、死後も手厚く葬られた。
さて、俺達が住んでいる縄文時代では四季によって主に食べるものが異なる、狩猟は主に冬にメインに行われ、春は海の貝や山菜 、夏は海や川や沼での魚 、秋は木の実を主な食糧としている。
もちろん冬でも海に出たり、冬でも取れる野菜を探したり、保存していた木の実を食ったりもするが、そういったものが一番取れづらい季節だから 狩りの頻度が高くなる。
まあ、革の確保と言う理由もあったりするがな。
というわけで、俺も狩猟に出る事になった、弓を使える奴と一緒に俺は弓矢は扱えないので石槍を持って出かけるわけだが、ワンコたちは大きめになったチビ助たちも一緒になって4匹ほどついてくる。
「おいおい、大丈夫かよ……」
とは言え狼も複数の群れで狩りをするし、ちびすけと言っても1年以上経てば年齢的には成犬だ。
「怪我しないようにしてくれよ」
”わん”
ワンコたちは尻尾を振りながら、ひと吠えした。
まあ、無理はせんだろうと思うがな。
ワンコの中で一番大きいやつは慣れた様子でイノシシが地面を掘り返した跡を探し当て、地面についた臭いや残っている糞を辿っている。
しばらくしてワンコたちが一斉に走り出した。
「どうやら見つけたようだぞ」
「そうみたいだな」
俺たちも吠え声の聞こえる方へ走り出し、後を追いかける。
イノシシの巣穴からイノシシを追い出し、足に噛み付いて足止めをするのがワンコたちの役目だ。
イノシシとワンコの姿が見えた時一匹のワンコが牙で突き上げられた。
”ギャン”
だがその他の犬がイノシシの足に噛み付いて、イノシシを足止めしてくれた。
「よし、俺が弓でいるからお前は槍でトドメをさしてくれ」
「分かった」
俺はやりを両手で握りしめて、イノシシに矢が刺さり弱ったとことで、石槍をかまえ、俺の全力でイノシシをついた。
イノシシはバタリと倒れ、なんとか仕留めることができたようだ。
「そういえば牙でつきあげられたやつはどこだ?」
まだ若いそいつは前足をざっくり牙で切られていた。
「くそ、傷が深いな……」
俺は俺の来ていたシャツをナイフで切り裂いて包帯代わりにすしながら、犬たちに言った。
「頼むこいつを助けるためきれいな水場を探してくれ」
犬たちは俺の言葉がわかったかのように頷くと走り出した。
そして、吠え声を上げて場所を教えててくれた。
きれいな湧水で傷口を洗い流して、切ったシャツをきつく巻いて包帯代わりにする。
”グゥ”
痛いのか布をまかれるのが不快なのかワンコは顔をしかめる。
「お前の命を助けたいんだ、我慢してくれ」
”クウ”
「すまんな」
俺が強く布を巻くことで出血はある程度止められたと思う。
イノシシの血抜きをして、引きずりながら、怪我したワンコを抱きかかえ俺達は村に戻った。
その途中でよもぎだと思う草を見つけて、布を解いて怪我した場所へとあててみた。
「おお、大きなイノシシですね、お疲れ様でした。
おやそのこは?」
ウパシチリが俺が抱えてるワンコを見て首を傾げた。
「怪我したんで俺が抱きかかえてきた
大丈夫だろうか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。
この子から生命は漏れ出ていないようですから」
「そうか、其れは良かった」
結果として言えばワンコは無事助かった。
しかし、しばらく狩りに出られそうにはないけどな。
俺は食べ残しではなく俺が食べる前の食い物をワンコのところに持っていた。
「ありがとうな、お前たちが頑張ってくれたから肉も食えるし
革の服も作れる、だから俺の分を食ってくれ」
ワンコたちは食べはじめたが、怪我したワンコは肉を口にくわえると、俺にも食べろとばかりに差し出してきた。
「そうか、ありがとうな、じゃあこっち側はもらうぜ」
俺はワンコのくわえていた肉をちょっとちぎると食べた。
その様子を見てからワンコも肉を食べはじめた。
「これで俺もお前たちの仲間ってことだな」
犬たちが嬉しそうにしっぽを振ってくれる様子を見て俺も笑った。
全くのこの時代は気のいい連中ばかりだ。
もちろん奥さんの家族たちにもイノシシ肉は配られたし、とりあえずはめでたしめでたしだ。
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