歓迎の宴
その日彼らは俺を歓迎する宴をひらいてくれるそうだ。
「客人はのんびり待たれるといいでしょう」
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
まあ、どんな時代でも働かざるもの食うべからずなわけだが初日くらいは勘弁してもらいたい。
集落の人間は食料を取るために、あるものは麻で編み、土器のかけらや小石を重りにした網を手に持ち、あるものは竹の釣り竿に麻の糸と角か骨をけずった釣り針をつけた釣りセットを持ち、在るものは弓矢を持って、在るものは竹で編んだ籠をもってそれぞれ集落から出ていった。
そういえばこの近くには大森貝塚も有ったっけな。
縄文時代というと旧石器時代とあまり変わらない生活、動物の毛皮を身にまとい打製石器の石斧や石槍で狩猟をして生活していると勘違いしてる人間もいるようだが、日本には1万7千年ほど前に麻や芋、竹などを持ち込んでいた、もしくは交易をしていた人間がいたらしい。
長芋や里芋は日本が原産ではなく南方のタロイモやヤムイモなどを持ち込んでうまく育ったもののが野生化したらしいぜ。
自然薯の山芋は日本原産らしいが。
現に彼らの麻の衣装は黒と白で文様がつけられていたりする。
集落の周りに植えてあるのは多分栗の木なのだろうな。
まあしかし、ここが1万年くらい前の下丸子だとしたら海の下になってなくてよかったぜ。
ここはかろうじて武蔵野台地の端にかかってるからな。
目を覚ましたら海の中で溺れ死んでたなんて洒落にならん。
やがて、集落を出て食料を探していた面々が戻ってきた。
彼ら彼女らが取ってきたのはイノシシとでかい海老や蟹や牡蠣っぽい貝、鯵(あじ)っぽいけどなんかでかい魚、鱸(すずき)っぽいけどかなりでかい魚、山芋にアシタバとアサツキっぽい野草?などだった。
「今日は色々取れたなぁ」
「ああ、海の神も野の神も喜んでいるようだ」
そんなことを話している彼らは波音や草が風に揺れるおとを”声”として認識できるらしい。
日本人は鈴虫(すずむし)や蟋蟀(こおろぎ)、蝉(せみ)などの”虫の声”を聞くことができるがその能力が彼らは特に強いようだ。
これは母音や、虫や動物の鳴き声、波、風、雨の音、小川のせせらぎの音などを、日本人やオーストロネシア語族の人は言語と同様の左脳で聴くことができるが、その他の殆どの人類は楽器や雑音と同じく右脳で聴いているかららしい。
そしてこの水の音を声として聞く能力によってオーストロネシア語族は古くから海をわたる能力に長けており、日本人は4万年ほど前の石器時代から伊豆諸島の神津島に黒曜石(こくようせき)を取りに行ってるらしいぜ。
まあ伊豆半島からなら伊豆諸島は見えるわけだが、大した行動力では在るな。
石を砥石となるもので削って石皿を作ったり、木を石斧で削ってまな板のようなものを作ったり、同じく木を削って木の皿を作ったり、黒曜石のナイフで魚をさばいたりなど、現代とあまり変わらないようなことまで行ってる。
今日の食事はイノシシの丸焼きと残りのものを煮たものになるらしい。
イノシシは皮をはいで、腹を開けて内蔵を取り出して腹の中をよく水で洗って其れを棒に挿して薪で炙る。
某狩猟ゲームの”よく焼けましたー”みたいな光景を思い浮かべてもらえばいいんじゃないか。
よく洗ったイノシシの内臓と取ってきた残りのものは材料を適当にブツ切りにして土器に水と海水を混ぜてぶち込んで煮てるようだ。
まあ流石に調味料は海水の塩分以外は無いが、蟹や海老、牡蠣、魚のあらなどが混ざってればだしは十分に取れるからな……大きな鍋の役割をしている土器から竹を使った柄杓?のようなもので木を削って作ったお椀?のようなものに取り分けて皆で食べているだけだが思いの外にうまい……しかし熱い汁物の中身を皆手づかみなのはどうなんだ?熱くないのか?
ということで、悪いが俺は背負っていたリュックからアルミ製のはしを出して其れを使わせて貰った。
「何だ其れは?」
と最初は不思議そうにしていた周りの者たちも俺が箸でつまんで食べているを見てなるほどと思ったようだ。
「なるほど、そうやって棒で挟めば熱くなくて済むわけか」
「ああ、俺たちはこうして食べるのが普通だぜ」
早速彼らは木を削って俺の真似しようとするが、なかなかうまくいかないらしい。
「むむ、どうやればいいのだ?」
「箸の持ち方は……こうだ」
と持ち方を教えるがすぐにはうまくいかないようで、めんどくさくなって手づかみで食べるものがほとんどだったが、中には器用に箸を使えるものも居た。
俺は感心して
「お前らすげーな」
と言ったが、彼らはキョトンとして
「いやいや、お前のほうがすごいと思うぞ」
といってきたが、全然すごくないぞ。
こうして見ると縄文時代における食生活というのは決して悪くないな。
海の近くで貝や魚、甲殻類を取ることもでき、イノシシも取れて一応食える野草も在るからビタミンも問題ないんじゃないかな?
強いて言えば甘いものが全くと言って無いぐらいか。
この時代ではしょうがないけどな。
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