住んでる家ごと縄文時代の日本に転移したんだが案外住みやすい件
水源
プロローグ
「さーて、寝る前にもう一度荷物をチェックしておくかな」
俺の名前は真田幸屋(さなだゆきや)。
基本週一休みのブラック企業で働いているアラサーの何の変哲もないおっさんだ。
まあ一応学生のときは剣道なんかもしてたんだが、今じゃそんなことをやる暇がない。
そんな俺だが真冬のさなか、明日から有給を使って3連休でキャンプに行く予定だったりする。
「寒いときのほうがキャンプ場が空いていていいからな」
去年奥多摩のキャンプ場に一人でキャンプに行って、他に誰もいないキャンプ場で石を積んで薪の直火で肉を焼いて食べたり、温泉に浸かったり、ニジマスを釣ったりしたのは非常に楽しかったので、なんとか仕事を調整して有給でまたキャンプに行くことにしたのだ。
因みに俺が住んでいるのは東京都大田区下丸子の築50年風呂なしトイレ流し共用の木造アパートの二階にある4部屋のうちの一つだが、他の部屋は会社の事務所の名義になってたり、物置になってたりして実際に住んでるのは俺だけだ、本当は住む家は在るんだが、職場まで遠すぎるので休み以外は帰ってない。
もともと古い家に住んでたから俺にはそんなに気にならないがまあ女性だと住めないかもな。
一階は大家さんのおじいさんが住んでるが奥さんと一緒にこことは違うマンションに住んでるらしくほとんど居ない。
用意したのは2人ぐらいで寝る事ができるワンタッチ式のテント、テントの下にしくグランドシート、テントを固定するためのペグにハンマー、前回はテントに雨がしみてきて大変だったので撥水スプレーとブルーシート、-10度まで大丈夫なマミー型シュラフ、テントマット、アルミ製の調理器具とフォーク・ナイフ・はし、飯盒、肉などを切るためのナイフ、川でイワナやヤマメを釣るための伸縮式の釣り竿と仕掛け、簡易浄水器、LEDのランタン、FMラジオ、キャンプ用の携帯コンロとバーナーははカセットボンベ式と専用のガスカートリッジ式の両方を用意した、専用ガスカートリッジのバーナーは火力は高いけどカートリッジが高いんだよな……。
食べ物としては米と味噌汁だけ持っていけば後は現地の肉屋やスーパーで買えるはずだ。
あとはせんべいでも入れておくか。
それらを押し入れから引っ張り出して、大型のリュックサックに詰め込んでいく。
俺は車やバイクを持っていないので電車での移動になるのだな。
不便だがまあ仕方ない、週一休みの都心住みでは車を持つメリットが全くないので、運転免許も更新しなかったんだよ。
押し入れに残ってるのは地震が来たときのための防災袋が2つ、まだ開けてない玄米の2kgの袋と2リットルのミネラルウォーターが10本と爽健美茶が10本、醤油やふりかけなど。
まあ何か有っても最悪1週間くらいは持つだろうと思う。
必要なものが揃ってるのを確認すると俺は
「さて、ちょっと仮眠をとるかね……
しかし、長時間労働しても給料は雀の涙だし
産業革命前の大昔ののんびりした暮らしをしてた奴らが羨ましいな」
オレは布団に潜り込んでウトウトした後、眠りについた。
・・・
「ん、なんだ、すごい蒸し暑い?なんでだ?」
異様な蒸し暑さに俺は目覚めた。
因みに窓型エアコンは冷房専用なので俺の部屋にある暖房は電気毛布だけだ。
その電気毛布のスイッチも入れてない。
いつもなら室温は10度以下だったりするのだが、15度位は在るぞ。
妙に温かいのを不思議に思い首を傾げた。
そして部屋の電気をつけようと電気の紐を引っ張ったが……。
「停電か?」
電気は付かなかった。
スマホ用のポケットWi-Fiも圏外になっている。
「一体どうなってるんだ?」
流しに向かって顔を洗おうとして蛇口をひねった。
「水が出ない……」
その隣のガスコンロをつけてみようとした。
「火がつかない……」
何故か電気・ガス・水道のすべてが止まっている?
料金は払ってるし、水道代は家賃込みだからどうにもおかしい。
「電車……動いてるよな」
俺はリュックサックを背負って玄関を出た、そこに見えたのはどこまでも広がる草原と青い空だった。
「な、なんじゃこりゃー」
道理で電気もガスも水道も止まってるはずだよ。
一体なにがどうなってこんなことになったのかさっぱりわからないが……。
そこへ突然かけられる声。
『おい、お前さんどこから来た』
声をかけてきたのは簡素な衣類に身を包んだ背の小さいガッシリとした体格の立派な髭を生やした男だった。しかも、よくわからんが相手の言葉は日本語じゃない気がするぞ。
なんでかわからないが俺には相手の言ってる意味は理解できるようだし、こちらの言葉も通じているらしいがなんだが。
服のイメージ的にはアイヌの民族衣装っぽい。
年は俺と同じくらいか?
「どこからと言われても、そこからなんだが」
と俺は何故か一軒だけ残ってるアパートを指し示した。
『ふむ、こんなものはここにはなかったはずだがな』
不思議そうに首を傾げる男にオレも首を傾げた。
一体何がどうなってるのやら。
『まあ、こんなところに一人では大変であろうし
俺達のところにくるがいい。』
見も知らないオレを連れて行こうというのは随分警戒心がゆるいな。
まあ、警戒されても困るが。
俺はリュックサックを背負い直してついていった。
しばらく北の方に歩いていくと竪穴式住居らしきものがいくつもある集落に近づいていく。
「竪穴式住居か……なんでこんなところに?」
俺がそんなことを言っていると声がかけられた。
『俺の後ろをちゃんとついてこいよ。
落とし穴に落ちて怪我したくなかったらな』
「お、おう、分かった」
聞けば集落の周りの落とし穴はイノシシ対策などのために作ってるらしい。
ここが関東の俺の住んでいた場所だとすれば、どうやら縄文時代早期から中期くらいじゃないかな、ここが異世界とかじゃなく日本だとすればだが。
男は俺を集落の入口で待たせた後、大きさが20メートル×10メートルほど在るかなりでかい竪穴式住居にオレは案内された。
「でかいな……ここに入ればいいのか?」
『ああ』
巨大な竪穴式住居の中には貝などで作った装身具で飾り立てた女性が居た。
どうやらこの女性がこの集団のリーダーのようだ。
『連れてまいりましたウパシチリ(シマエナガ)』
んあ?シマエナガ?たしかに肌は透き通るように白く丸っこくて可愛らしい感じだが。
『変わった格好をしていますね。
一体どこから来たのですか?』
どこからって、そもそもここはどこだ。
しかも、にてるような気もするんだが日本語じゃない気がするぞ。
なんでかわからないが俺には相手の言ってる意味は理解できるようなんだが。
「すまない、俺自身もどこから来たのかわからないんだ」
『わからない、ですか?』
俺は逆に聞き返した
「ええと、すまないがあなた方はいったい?」
俺の言葉に回りにいる男たちが顔を見合わせている。
『我々は人間(アイヌ)の同胞(ウタリ)です。
どうも見かけない顔ですね』
彼女は首を傾げた。
「多分言ってる意味がわからないと思うが、多分俺はずっと先の時代から来たんじゃないかと思う」
家の中にいたのは白髪の老婆だった。
古代のヤマトタケルがしているような髪型に髪を結っている、その老婆は俺に聞いてきた。
『それは真実と思いますか?』
彼女は俺の目をじっと見ている、まるで心を見透かそうとするように。
「ああ、ちかって嘘はついてない、俺が住んでたのは多分何千年か先の日本という島国だ」
『たしかに嘘はいっていないようですね。
カムイ達もそう言っています。
どうやら行く宛もないようですし、この村で暮らされると良いでしょう』
「ありがとうございます」
こうやってアイヌの集落の族長に紹介され俺はここで彼らと暮らすことになったんだ。
ちなみにこの時代における彼らは政治的なことは女系社会で、巫女が長を務めている。
まあ、其れは身分の上下を示すものじゃないがな。
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