ラディマックス〜デスロードの彼方に〜

第12話帰ってきたディバインナイト

 かつて闘争があった。

 一つの武装集団の暴走に端を発した紛争は、地球全土を巻き込む全面戦争となったのだ。

 戦争が膠着状態になって八ヶ月。武装集団は地球に甚大な被害を及ぼすコロニー落とし作戦を切り札に、ビッグフォレスト警察に対して降伏を迫った。

 これに対してビッグフォレスト警察は極秘裏に開発していた決戦兵器を投入。徹底抗戦のかまえをとった。

 しかしこの全面戦争に対し楔を打ち込む者がいた。神の啓示を受けた「ディバインナイト」ラディオルステッドその人だった。

 彼は世界から紛争を無くすため、民族、国家、宗教を超越した作戦行動を展開していく。ディバインナイトが世界に変革を誘発する。



 ピースアイランドから武装集団アックスメンの脅威が去ってはや二日。人々はその喜びを噛み締めていた。

「アックスメンがいなくなったぞ!」

「ウェーイ! アックスメンいないウェーイ!」

「オレにはオレが居ればな……」

 皆一様に喜びの声をあげ、「祭りでもやるか」とか、「いっそ国民の祝日にしよう」とかいった声もあがっていた。

 それだけアックスメンというヤツらは悪党の集団だったのだ。その辺に唾は吐く、噛み終わったガムも吐き捨てる。たばこもポイ捨てする。大悪党だった。しかし地べたでワンカップは飲まなかった。何故ならそれをやってしまったら、競艇場にやって来るじじいどもと同列である。アックスメンにもカケラだけではあるが、強い誇りがあったのだ。

 しかしそんなアックスメンは滅んだ。もう道を行く時気をつけるのは、地べたでワンカップを飲んでいるじじいだけである。アルコール中毒のジジイなど恐るるに足りん。市民は皆そう考えていた。実際その通りで、ジジイどもはピースアイラアンドから駆逐されようとしていた。

「平和だねえ」

「そうだねえ」

 ラディは友人のノッチと平和を謳歌していた。

「ねえジェロニモ」

「その呼び名やめてよ。なに? ノッチ」

「一緒に『薔薇族』読まない?」

「読まない」

 ノッチは「チェッ」と、残念そうにする。それにしても平和だった。この平和がいつまでも続けばいいな。ラディはそう思ったのだった。

「おはよう……」

 元気なく現れたのは、クラスメイトのティーポだった。テイーポの顔は青ざめていて、今にも倒れそうだった。

「おはようティーポくん。どうしたの? 元気ないね。」

 ティーポは突然涙を流し、ラディに訴えた。

「カツアゲされたんだ」

「誰に?」

 ラディの問いの答えは意外なモノだった。

「アックスメンの団員」

「「え?」」

 アックスメンは二日前に壊滅したはず。ラディもノッチも、思わず声を漏らした。クラスメイト皆がこちらを見ている。

「プラモデル買いに、『シーチキンズアイランド』に行ったんだ。そしたらアックスメンの残党に囲まれて、有り金全部盗られて……自転車も盗られた……」

「ヒドイな」

 ティーポはラディにすがってくる。ラディはそれを払うことができなかった。ジェロニモは人間といえど、村長を殺して超人になる男。超人はそんなことをしない。そう思ったら払えなかったのだ。

「頼むよラディ! ヤツらをヒドイ目に合わせてくれ! そして、このティーポに勝利と栄光を!」

 そこまで言ったところでティーポは口から血を吐いて死んだ。

「あっ! 死んだ!」

 思わずノッチは叫び、その場を一歩後ずさる。随分トマト臭い血だなとは思ったが、ラディはティーポの亡骸を地面に横たえると立ち上がった。

「ノッチよ」

「なんだい?」

「再び……再び『ディバインナイト』として立ち上がる時が来たようだ」

「そうだね。ジェロニモ、いや、ディバインナイトのラディ」

チャイムが鳴った。授業が開始される時間だ。

 地面に横たわっていたティーポを含め、全員が席についた。算数の授業を受けながら、ラディは強く思った。

「アックスメン。次こそは必ず!」

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