第11話死闘

 ラディにとって幸いだったことが二つあった。一つは木剣を母親に奪われなかったこと。もう一つは今日が土曜日だということ。明日も休みというのは、心がウキウキするものだ。

 ラディは公園へと向かった。おそらく来るであろうアックスメンの本隊と戦うためだった。

「……今日は来ないか」

 公園のベンチで三時間は待ったラディが、そう結論づけようとした矢先のことだった。

 なにか異様な臭いがした。

「ガスの臭い!」

 爆音を轟かせながらアックスメンの本隊、総勢百人近くが再びラディを取り囲んだ。

「ラディよ、よく来た。このヒューマンベスの手下になる時が来たようだな」

「くどいぞ、ヒューマンベス! オレは貴様の手下になどならぬ」

「ではこのヒューマンベス直々に相手をしてやろう」

 ヒューマンベスはその美の男神といわざるを得ないほどの、超肉体美を惜しげもなくラディにとくと拝見させる!

「なんという肉体美! これはナイスバルク! としか言えぬ!」

「さあ、この肉体美を見て、うぬも我が軍門に降れ」

「そこまでの肉体美に仕上げるには、眠れぬ夜も有ったろう」

 ラディは木剣を抜き、ヒューマンベスに向ける。

「だが! 汝の犯した罪は重い! 其は聖の元へ滅せよ!」

 ラディはヒューマンベスに襲いかかる!

 流石にヒューマンベスは武装集団のボスであった。いかにディバインナイトであっても一筋縄ではいかなかった。どうしても、ヒューマンベスのポージングを見てしまう。事態は長期戦の様相だった。

「ぬうぅ……うぬは化け物か! これだけの攻撃を持ってしても!」

 するとヒューマンベスのバギーに入電が入る。

『ヒューマンベス様、お戻りください。ムサイはメガ砲も使えず……』

「ザクはどうしたのだ? まだ受け取っておらんのか!」

「パプアのカタパルトがやられているらしいのです。なのでザクは……」

「ええい、今いく! なんとか持たせろ!」

 ディバインナイトたるラディの攻撃をさばきながらヒューマンベスは受け答えをしている。流石にアックスメンのボスだけのことはあった。

「アレを出せ!」

 ラディから間合いをとったヒューマンベスは部下に箱を持ってこさせた。

 その中に入っていたものは、なんと拳銃であった。もちろん実弾も入っている。

 ヒューマンベスは、拳銃をぶっ放した。

 それは空を飛ぶヘリコプターに当たり、それを墜落させたのだった。

「今だ!」

 ラディはヒュマンベスのボディに木剣を、最後に残ったホンの一握りの力を込めて叩き込んだ!

 流石のヒューマンベスも、ディバインナイトの渾身の一撃に耐えられず、その場に倒れ込んだ。

 そして遂に高速で走っていたタンクローリーは横転し、ヒューマンベスを押しつぶしたのだ。

「燃料に引火するぞ!」

 だれしもそう思った。ディバインナイトたるラディも一瞬身を硬くさせた。

 しかし、タンクローリーの中身は燃料ではなかったのだ。

「す、砂……」

 こんなものを取り合っていたのか。そう思ったアックスメンの面々は、一人、また一人とその場を後にした。残ったのはディバインナイト、ラディのみだった。

 私たちも「このまま置いていけ」そう言っているラディを置いて、その場を去った。

 ラディがその後どうなったかは誰も知らない。

 ただ一つ言えるのは、我々が立ち去った後パトカーのサイレンが辺りに鳴り響いた。それだけだった。


「ようラディマックス。今日は木刀持ってねえのかよ」

 アホの三組の人間に茶化される。でももうラディは自分を卑下しない。だって、

「だってオラは人間だから!」

 そして、ラディのあだ名は、「ディバインナイト」から「ジェロニモ」に変わったのだ。

 その内村長を殺して、超人になるであろう「ジェロニモ」に。

 ラディは窓の外を見る。

「今夜もちゃんとトイレ行ってから寝よう」

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