第10話神の導き
五時間目の授業も終わり、下校時間となった。やはりイヤな予感はするものの、ラディはリュックを背負い帰宅の途に帰った。
校門を出て右に曲がり、まっすぐ家に向かおうとした。
意外な人物がそこに居た。
「来たなラディ」
ティーポだった。ティーポは見慣れぬ人物を連れていた。
「オッサム兄ちゃんコイツだよ」
「なんだ、弱虫ラディじゃないか」
ため息をつきながら、肩をすくめるティーポの兄の格好は妙だった。
素肌の上にアメリカンフットボールの防具を身につけている。更に言えば髪型はモヒカン刈りだ。北の方の拳法でやられそうな格好だった。
「オッサム兄ちゃんはな、アックスメンに入団したんだ。お前なんか八つ裂きにされるぞ!」
アックスメン、ラディは聞いたことがあった。それはミュータントの集団のコトでは無く、最近この辺を荒らしている武装集団の名前だった。ティーポの兄はそんな集団に入団していたのか。
ラディはティーポの兄を哀れに思った。
「ティーポの兄オッサムよ」
「何だよ」
「非行に走るな、正道を行くのだ。さすれば……たばこをその辺に捨てるんじゃ無い。いいか? さすれば……つばを吐くんじゃ無い。さすれば必ずや神の導きがある」
オッサムはそれを鼻で笑い、ダガーナイフを取り出した。そろってナイフを使う。さすが血は争えない。ラディはベルトに差してある木剣を抜き、オッサムに向く。
「オッサムよ、死にたくなければやめておけ。そなたとオレでは強さの格が違いすぎる」
オッサムは再びつばを地面に吐き、ダガーナイフでラディに襲いかかった。
軽妙なナイフ捌きだった。素手なら近寄ることも厳しいだろう。素手なら。
しかしそこはラディ、ダガーナイフを振り回すオッサムの隙をつき、背後に一瞬でまわった。
「な、消えた!」
「オッサム兄ちゃん、右だ!」
言われた通り右を向き、罵声を吐くオッサムの頭を、左にまわったラディは上段の一撃で失神させた。ティーポのウソが招いた結果だった。
「に、兄ちゃん! ラディ、これで勝ったと思うなよ!」
ここまでしてもティーポは改心しない。ラディの胸にはむなしさだけがあった。
「ティーポよ」
「今だ! 火炎瓶ッ!」
ティーポはそう叫びつつ、ダガーナイフを拾い上げラディに襲いかかった。
しかし、バタフライナイフの時と同様の手順でティーポの頭に一撃を食らわせた。
ティーポもオッサム同様失神し、その場に倒れた。
「オイテメエ!」
「そなたは?」
三人の男、恐らくオッサムの仲間であろうヤツらが、ラディを囲んだ。
「テメエは一体何者だ!」
「ディバインナイトの称号を持つ、神の啓示を受けた男。ラディ・オルステッドだ」
「ラディか、確かに覚えたぞ。ボスに言いつけてやる! 貴様はもう終わりだ。今夜、マンション群の中央にある公園に来い」
三人の男はそれだけ言うと小学校のはす向かいにある図書館へと姿を消した。
おそらく冷水機の冷たい水を飲みに行ったのだろう。
「勝負とはむなしいモノよ」
ラディはベルトに木剣を差し、その場を後にした。
「そろそろ時間か」
公園の時計は五時を差している。よい子は帰宅する時間だ。
その日のラディは、公園から帰らなかった。アックスメンの誘いに乗るためだった。
「フ、人々の模範たるべきディバインナイト失格だな」
その後五分もしないうちに、爆音がとどろいた。アックスメンの連中が、バイクやバギーに乗ってやって来たのだ。
アックスメンの面々は、公園にただ一人たたずむラディを取り囲んだ。
「うぬがラディか」
ボスだろうか? 赤いアイスホッケーの面をつけ、筋骨隆々といった具合の大男がバギーを降りラディの前に立った。
「いかにも、オレがディバインナイト、ラディ・オルステッドだ」
「うぬと話がしたい」
すると団員の一人が前に飛び出た。
「話し合いなんか出来るか! ブッ殺してやる!」
するとその男はボスらしい大男に、首を捕まれた。
「うぬの怒り分かる。しかし今は話し合いの時だ」
男は気絶するまで首を絞められ、気絶したところで放り投げられた。十メートルは飛ばされたのではないだろうか?
「さて、ラディよ。うぬに聞きたいことがある。我がアックスメンに入らぬか? そうすれば世界の半分をうぬにやろう」
世界の半分、まるで竜族の王のような言いようだった。
「断る。オレはただ神の道を説くだけだ」
「交渉決裂か」
するとボスはバギーに再び乗った。
「どうした? そなたは戦わないのか?」
「うぬの相手は部下がする。我が相手に相応しいか、とくと拝見してやる」
ディバインナイトとはいえ、たった一人の小学五年生に向かって、アックスメンの団員総勢二十人は牙をむいた。
「しかたあるまい」
ラディは木剣を抜いた。
「死にたい者から前に出なさい」
モヒカン二十人はラディに次々襲いかかった。しかしラディはものともしなかった。神の啓示を受けたディバインナイトの強さに違わないものだった。
二十人を倒し切ったところで、アックスメンたちは逃げていった。ラディにとって、この程度は朝飯前のイタ飯後ろというところではあったが、流石に疲れたので帰宅した。
帰宅したところ、ラディは母親に怒られた。帰宅時間が遅かったせいであった。
「フッ、ディバインナイトも楽では無いな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます