ラディマックス

第9話ディバインナイト

 一九九X年、世界は核の炎に包まれるでも無く、全くもって平和にノストラダムスの大予言をヒラリとかわしたワケであった。

 まったく、あの大予言は何だったのだろうか? お偉い学者先生なら、「アレは当時の歴史を暗に説明したモノで」なんてご高説を聞かせていただけるワケである。

 でもそんなことは全く以てどうでもよく。核の炎に包まれたのは二〇〇X年に取って代わられ、それもまた二〇XX年に取って代わられるサダメにあった。

 何が言いたいかというと、結局もって世界は一部を除き大まかに平和であった。というコトだった。



 ラディは自分を呼ぶ声に耳を澄ませていた。

 崖の前に立っていたのだ。一歩踏み外せば落っこちてしまう。恐ろしい。底が見えない程の崖だ。落差百メートルどころの話では無かった。

 しかし、ラディはその神聖な感じのする声に耳を傾けずには居られなかった。

「ラディ、これからお前に光の力を与えよう」

 光の力を受け取るとどうなるモノか? 危ぶむなかれ、危ぶめば道は無し。そんな言葉を思い出した。

 すると世界中の光がラディの目の前に集まり、一振りの剣を形成したのだ。

 これはおそらく「でんせつのつるぎ」だろう。ラディは剣に手を伸ばした。剣はラディの手の中で、鼓動しているように感じた。

「さあ行け! ゴルベーザを止めるのだ」

 ゴルベーザって誰だろう? 兄さんっぽい名前だが。ラディに兄は居ない。

「ま、待ってください! アナタは一体?」

 しかし返事は無く、そのままラディは目を覚ました。

「夢オチかよ!」

 ラディは、一人突っ込みながらも寝床から起き上がる。

 しかし奇妙な夢だった。まさかアレは夢では無いのでは無いだろうか? だとすれば何だ? ラディは考える。うなりながら考える。頭から湯気が出てきたその時、一つの結論に達した。

「オレは神に選ばれたんだ」

 そう考えるのが妥当だった。何せ毎日していたオネショを今日はしていない。神様が与えてくれた力のおかげだ。そうに違いない。それ以外考えられなかった。

 ラディは高揚する自分自身を抑えきれず、キイキイわめき散らしながら踊った。

 そこでラディはハッと気づき落ち着きを取り戻した。

 バカな。これでは猿だ。モンキーだ。吸血鬼から見た人間はモンキーらしいが、コレではいけない。神に選ばれし男のすることでは無い。自重することにした。

 ラディは一言「ヨシ」と吐き捨てると、服を着替えた。小学校に行かなければならないからだ。ラディの通う、「ビックフォレストイースト小学校」に行かねばならない。

 着替えた後は何をするか? 朝食を食べよう。きっと母が用意してくれている。

 リビングに現れたラディは、母に挨拶する。

「おはようマザー」

「はいおはよう」

 母は今日も元気だった。既に朝食は作り終えたらしく、食卓には既に食事の用意がしてあった。

「いただきます」

 食前の祈りを忘れずにし、ラディは朝ご飯を食べた。トーストと、コールスローサラダ、そして焼いたジャガイモ。ウインナーが二本あるのもうれしい。

 ラディはペロリと平らげた。

 食器をシンクに下げるのを忘れなかった。自分は神に選ばれたのだそれくらいして当然だった。

「あら、偉いのね」

 という母に、ラディは真顔で返す。

「神に選ばれしオレには当然すぎて朝飯前だ」

 朝ご飯を食べた後に、朝飯前とはこれ如何に?

 よくわからないが、ラディは学校へ行くためリュックを背負った。しかしなにか足りない。神に選ばれたラディとしては何かが足りない。ラディはハッと思い出す。

「そうか、剣だ」

 そう、神の啓示を受けたとき、ラディは一振りの剣を、「でんせつのつるぎ」を手にしていた。

 アレを持っていないと話にならない。

「ムムゥ何かいいものは?」

 定規を手にしてみる。三十センチの大きいタイプだ。しかし何かピンとこない。コレでは無い。

 ハサミを手にする。これも違う。

 スプーン、巨大に変身できそうだが違う。

 包丁、投げれば最強だが剣では無い。

「あ、そうだ」

 ラディは納戸のドアを開けた。

 そこには作っていないエヌゲージや、壊れた扇風機などゴチャゴチャと色々なモノが入っていた。

 納戸の中をあさること二十秒。

「あったあった。コレだ」

 それは一振りの木剣だった。

 お土産屋で売っている、木刀では無い。ロングソードの形をした、木剣だった。

「ファーザーがハバラの武器屋で買ったんだっけ」

 今はもう無いその店で、ラディはロングソードの形をした木剣を、父親に買ってもらったのだ。それは確かに手にしっくりきた。

「コレだ。コレがでんせつのつるぎだ」

 ラディはベルトに木剣を差すと、ビックフォレストイースト小学校へと向かった。


「……ということがあったんだ。我が友ノッチよ」

「スゴいじゃん! ラディくんは今日からディバインナイトだね」

 友からそんな称号をもらった。ラディ自身信じられなかった。よもやナイトの称号の中でも、かなりの上位であるディバインナイトとは。これは世界が動き出す予感がした。

「ありがとう。ありがたく拝領しよう」

 クラスメイトのライネスは、この間ノッチから「グローランプー」という称号をもらっていた。

「光の救世主」という意味らしいが、どう考えても蛍光灯に使用する「グローランプ」から来ている。それよりは「ディバインナイト」の方が一を足して百かけた位カッコいい。何故一を足すのか? それはゼロにいくつをかけてもゼロだからだ。

「ディバインナイトか、その称号に負けぬよう、日々精進せねばな」

 と、ラディが決意を新たにしたその時だった。

「ちょっとツラ貸せよ」

 それはティーポというラディのクラスメイトだった。

 ラディの友人ではあるが、平気で嘘を吐き、だます。そんな男だった。

「どうした? ティーポ」

 その態度が気に入らなかったらしい。ティーポはラディの手を引っ張り、クラスの外へ出た。

 そしてティーポは、ラディたちのクラスの向かいにある、図書室へとラディを連れ込んだ。

「愛の告白、ということでもあるまい。何用だ」

 ティーポは唐突に、バタフライナイフを取り出した。 研いでないナイフだが、それは十分に凶器だった。

「ラディ! 死なす!」

 一体何が彼をそこまで駆り立てたのだろうか? ラディにはわからなかった。もしかしたらラディ宅の家捜しの途中にマンガを読んでいたという、いわゆるラディが協力的ではなかったことを根に持ったのかもしれない。

「一度だけ言う。落ち着いてバタフライナイフを下に置け」

 そんなことティーポが聞くわけが無かった。

 ティーポはラディに向かってバタフライナイフを振ってくる。

「仕方有るまい」

 ラディは腰の木剣を取り出した。

「ディバインナイトだかなんだか知らないが、ラディは殺す! あの世でわび続けろ!」

 ティーポは必殺の間合いから、ラディに向かって突進してくる。

 このままでは腹を刺されて大けがだ。下手をすれば死だ。

 当然ラディは応戦した。

 と言ってもラディはただ、木剣を振り上げ、下ろしただけだった。

 ラディが振り上げた木剣はティーポのナイフに当たり、天井に刺さった。これではティーポの手にはナイフは届かない。

「フン!」

 そして、ラディは木剣をティーポの脳天に落とした。

「ぐぺぺぺぺー!」

 ティーポはそんな声を上げ、ラディの足下をのたうち回っている。

「これがディバインナイトの力だ」

 ラディは木剣を一振りして血払いをし、ベルトに再び差した。

 ちなみに木剣には血は一滴もついていない。

「くそぉ……いつもは弱いくせに」

「ティーポよ、何故だ? 何故かような愚かなマネを……」

「兄ちゃんに言いつけてやる!」

 ティーポは泣きながら図書室を後にした。


 教室に戻ったラディは、辺りを見回す。しかしそこにティーポの姿は無かった。

「ノッチ、ティーポは?」

「なんか帰ったみたいだけど」

 ティーポはその後学校を逃げ帰ったようだった。ラディは何かイヤな予感がしたのだった。

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