第7話教祖

「脱獄だ!」

「どこ行きやがった!」

「捕まえろ!」

「オイ、アイツラゲイダゼ」

 そんな怒号が教団の道場内を駆け巡った。

 探し回る信者たちから、 当然オレは逃げまわる。

 んなワケ無かった。インペリアルナイトとして、逃げるわけにはいかなかった。

 オレは二刀流のバットを手に、襲い来る乱暴な信者たちを切り捨てていった。

 バットなのに切り捨てるとはこれ如何に? まあ、全員峰打ちで倒してるから、「切り捨て」とは言わないかもしれないな。

 まあいい、そんなことはどうでもいい。

 オレはどんどん前に進んで行く。もう、あと少しで外に出られそうだ。

 その時だった。唐突に信者たちが道を空けた。この道を通れということなのだろうか? オレは通ろうとする。

 その場にいた信者たち全員が、片膝をついたのだ。

 それは「この道を通れ」でも、「どうぞご自由にお帰りください」でも、「インペリアルナイトに対する礼節」でもなかった。

 道の真ん中を歩く一人の汚い風貌の男が。

「やあ、キミがライネスだね」

「誰だアンタは」

「ボクは尊師だ」

 尊師という男は、神はボサボサのロングで、ヒゲもボウボウ。紫のローブを身にまとっていた。当然のように太っていて、とても威厳があるようには、カリスマがあるようには見えなかった。

 尊師の前口上が始まる。

「キミは、この世界が腐っているとは思わないかい?」

 その瞬間、オレは尊師の脳天に、バットの一撃を食らわせた。

 するとどうしたことか? 尊師の姿がかき消えたのだ。

「残念、それはボクの化身だったんだよ」

 天井に設置してあるスピーカーから、尊師の声が響いた。

 そして、本物が現れた。

 どこからって? 空からだよ。座禅を組んだような体勢のまま空を飛んでいるのだ。インコ真理教の教祖、尊師と呼ばれる男、「マゲン セウカウ」は空を五秒間だけ飛べるらしい。

 天井があるのに空から来たとはこれ如何に? まあ実際は、尊師が信者の頭の上を通り過ぎたってことなのだがね。

「やあ、ボクが本物の尊師だ。これから、ボクと一緒に、ヴァジュラヤーナの世界へ旅立とう!」

 オレはバットを構える。

 すると信者が、ゴザを敷き始めた。尊師がそこへ座るのだろうか? それとも尊師を斬首する土壇場なのだろうか? かまえを解かないながらも、頭に「?」を浮かべていると、信者たちは何かカードをゴザの上に敷き始めた。

「さあ、この『インコカルタ』で勝負だ」

 見たことないカルタがそこに並んでいた。「そんしそんしマゲンそんし」だの、「わたしはてんからおりてきた」だの、「よげんのせかいをつくるんだ」などと書かれている読み札。

 似ても似つかないニコニコした尊師の絵や、信者たちが頑張って修行している絵札。

 そんなカルタだった。

「さあ、キミも座って、武器など置いて、一緒に楽しく修行しよう」

 オレはとりあえずそのカルタと尊師を見比べる。よくよくね。

 そして、オレは信者が並べたカルタに向かって、バットをたたきつけた。

 当たった先は「か」と書かれてあった絵札だった。

「アウチ!」

 それは絵札ではなく、カルタ大統領だった。メリケン国の大統領だ。並べられていたカルタ大統領は、ムクリと起き上がると、オレに向けにらみつけた。当然オレはそれを無視する。

「オイ、こっちを見ろ腰抜け」

 そこでオレの怒りはMAXになった。

「腰抜け? 腰抜けだって? 誰にも、腰抜けなんて言わせないぞ!」

 カルタ大統領は、オレの腹を殴ってきた。無論、平手ではなく拳でだ。

 オレの着ている服の下には、鉄板が仕込んであったので、殴ったカルタ大統領の方が痛かったようだ。

 そのままカルタ大統領は、信者に連れられて退場していった。

「どうあがいても、我々インコ真理教と敵対する気なのかね?」

 にじり寄ってくる信者たちに、オレはバットをかまえる。

 しかしインペリアルナイトであるオレは、引かない。

「先にこのインペリアルナイト、アーネスト・ライネスに戦いを挑んできたのはそっちだからな」

 オレはいつでも飛びかかれるようにぐっと身をかがめる。

「むむう、このインコ真理教にそこまで敵対するなら!」

「するなら、何だ?」

 尊師はオレを指さす。

「最早この世は救えない! これからは武力で行く!」

 すると、尊師の姿が消えた。

 よく見れば、尊師の足下に穴が開いている。そこを通って、どこかへ逃げたのだ。

 尊師が消えた後、急におびえだした信者たちは我先に逃げ出した。

 地面が揺れる、何かが来る!

 地下から道場の建物を破壊しつつ現れたのは、本尊のインコ大仏だ。

 身の丈三十メートルはありそうなこの巨大なインコ大仏。オレ一人で勝てるのだろうか?

 いや、臆してはならない。オレはインペリアルナイトなんだ。絶対負けられない戦いがここにある!

 インコ大仏にオレは襲いかかる! いや、襲いかかろうとした!

 インコ大仏に先に襲いかかったヤツがいるのだ。

 アンナだ。アンナはビルドアップしている。インコ大仏と、どっこいどっこいの大きさだ。

 どうも、遠くでオレを探していてくれたらしい。そういえば今日はアンナと遊ぶ約束していたんだった。

 アンナと、インコ大仏の怪獣大決戦が始まった。この戦い。どちらが勝ってもおかしくはない!

 オレはこの戦いを見届けることにした。

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