グローランプー

第5話インペリアルナイト

 やあ、オレはライネス。今日も転校したシゲサトのことをこれっぽちしか考えずに、のんびり下校中だ。

 ふと見ると、麗しのマドンナアンナが、変な連中にさらわれようとしている!

「てめえ、どこ触ってんだ! ブッころがすぞ!」

 するとアンナはPKビルドアップという、筋力を増加する超能力の一種を使い、身の丈三十メートルほどのレディに大変身した。

 アンナは国中が震えるほどの大声で吠えた後、一発だけパンチを放った。

 核爆弾の半分ほどの威力があるパンチだから、アンナをさらおうとした奴らは当然のごとく、髪の毛一本も残さず消し飛んだ。

 オレは空を見る。

「ああ、今日もいい天気だなあ」


 その日もオレは、道を歩いていた。

 別に約束の地を目指している訳ではない。ただの散歩だよ。散歩。

 というか、宇宙人の一件から少しの期間、ジム……じゃなかった、サイキック研究所を休んでいた。

 ただ単に行くのが面倒くさいってだけなんだけどね。

 そんなオレも、ついにナイトの称号を得た。しかもこの国最高の騎士、「インペリアルナイト」の称号だ。これからは「インペリアルナイト」としての活動がメインになっていくだろう。

 それにしてもおいしかったなあ……帝国観光ホテルのインペリアルヴァイキング。特にローストビーフがうまかった。

「オレ、インペリアルヴァイキング行ったんだ」

 って言ったら、友人のノッチがその栄誉をたたえてくれたんだ。

「今日からライネスはインペリアルナイトだね」

 なんて形で称号を得たわけだが、持つべきはいい友人だね。

 ふと路傍を見ると花が咲いている。まるでオレのインペリアルナイト就任をたたえているようだった。

 そしてオレは、初夏の陽気を楽しみつつ、四号マンションの裏を歩いていた。

 すると、路傍で誰か倒れている。

 この辺で有名なプーのジェフだろうか?

 プーとはプー太郎のことだ。今風に言うと、住所不定無職というヤツだ。ホームレスと言った方がはやいのかな?

「おい、ジェフ、大丈夫か?」

 既にジェフと決めつけて、オレは倒れているヤツのところへ行く。そして、うつ伏せに倒れているその人物を仰向けにしてやった。

 結論から言う。プーのジェフではなかった。

「オビ・ケン先生!」

 それはオレの通う小学校の男性教諭だった。酒浸りで、家庭訪問の時も酒臭い口で家までやってきたと、評判の先生だった。

「ボウヤ」

 唐突に話しかけられたオレは、驚いて後ろを見る。

「ドコカラキタンダイ?」

 片言で話しかけてくるそいつは、この辺じゃ見たことない人間だった。

 このピースアイランドから遙か遠方にある、ビックフォレストタウンの人間だろうか? まあ、風貌からして人さらいか人買いだろう。

「この辺の人間ですが」

「ニポンジンノトコナンダロ?」

「オレはこのピースアイランドの大地の子です。それよりこの酔っ払い教師、オビ・ケンをなんとかしてください!」

「カワイソニーヤセホソチャテー」

 それは筋肉が無くなって痩せてきたということだろうか? ボディビルダーならショックな一言だが、インペリアルナイトであるこのライネスさんには、あまり効果の無い言葉だ。

「オジサンガ、ナニカ、テベセセテヤルカラ。テスケテヤルカラ」

 それはまさかインペリアルヴァイキングに連れて行ってもらえるということだろうか?

 オレはオビ・ケンを放っておき、人さらいのおじさんについて行くことにした。

「ホイデホイデェ」

 言われるままにオレは、人さらいのおじさんが運転する車に乗った。

 車に乗ること十数分、ビッグフォレストタウンの先にある、プラム屋敷の辺りで車が止まった。

「おじさん? ここは帝国観光ホテルじゃないよ?」

 おじさんは「こっちに待合室がある」という旨を話すと、オレを鉄格子の中へブチ込んだ。

 オレはしばらく待った。しばらく待って、誰も来なくて、そこでようやく気づいた。

「やっぱりあのおっさん人さらいだ!」

 すぐさまオレは脱出を考え始めた。だってここは、インペリアルヴァイキングのある帝国観光ホテルじゃないのだから。

 どうやらなにか始まった様子だった。というのも、上の方からなにやらドンツクドンツク音が始まったからだ。

「太鼓かな?」

 合唱も始まった。インコに対する大合唱だ。もしかしたら、最近ニュースを制圧する勢いで話題になっている、「インコ真理教」とかいう宗教団体に捕まったのかもしれない。

 生け贄をおインコ様に捧げているという話もあった。

 池の水を抜き取り、水の代わりに液体人間を流し込んでいるという噂もある。

 自らの武術の力を背景に、町で好き勝手やっているという噂もある。

 ガトリング銃にグリーンピースを詰めて、発射しているという噂もある。

 とにかくやりたい放題なのだ。

 オレも生け贄に捧げられる前に、急いで脱出しないと。さもなくば死が待っている。

 オレは鉄格子に手をかける。

 押したり引いたりする。当然ながら鉄格子はビクともしない。

「無駄だよ」

 オレの背後から声がした。

「君は誰だい?」

 振り返ったそこには、上半身だけのロボットがぶら下がっていた。

「ボクは実験人形ビリー・オスカー」

「オレはライネスだ。インペリアルナイトのアーネスト・ライネス」

「インペリアルナイトか、大層な人が現れたモンだ」

 オスカーはクスクスと笑う。

 電子頭脳というヤツだろうか? オスカーはロボットなのに感情が豊かに見えた。

「アーネスト、わかるだろ? そこは鉄格子になっている。いくらインペリアルナイトといえど、その貧弱な体ではどうしようもないよ」

 ちょっとむかっ腹がたった。でもオスカーが言うのももっともだ。今のオレの力では、とてもじゃないがこの鉄格子は開けない。

「でもね、アーネスト。こういう手もある」

 するとオスカーは、人差し指をこちらに向け、ると、指を輝かせた。光は鉄格子に当たり、そして光は鉄格子を溶かした。

「ビームか」

「そうだよ。これは人間にはできないでしょ」

 得意そうなオスカーには悪いが、相棒のシゲサトはそういうビームを放てる。転校したけどね。

「よし、オスカー、脱出するぞ!」

 そう言ってオレはオスカーを背負おうとする。

「やめた方がいい。ボクはこう見えて、体重が百キロ近くあるんだから」

「百キロか。ま、かつげなくはないな」

 オレはPKビルドアップを使った。アンナほど大きくなれはしないが、オレも身の丈二メートル近いマッチョダンディになることができる。

そのはずだった。

「あれ?」

 何も変わっていない。その理由がすぐわかった。最近トレーニングをサボっていたからだ。くそ、こんなことならちゃんとトレーニングしておくんだった。

 それでも、オレの筋力は、少しばかり上がっている。微弱ながらビルドアップの効果は出ているようだ。

 なんとかオスカーを助けられるかもしれない。

 オレはオスカーをおろし、背負った。

「中々のヘビー級だねえ」

「置いて行きなよ、もうすぐ信者たちが追いかけてくるよ」

 それでもオレはオスカーを見捨てなかった。

 受けた恩は恩で返す。インペリアルナイトは義理堅いのだ。

 オレは可能な限り急いで外に出ようとした。しかし間に合わなかった。

 すぐにオレたちを発見した信者たちがオレとオスカーを囲んだのだ。

 そしてオレはカルマ落としと称して、ボコボコに殴られ、蹴られた。座禅の時肩を叩くあの棒の角で殴られて、別の牢屋に入れられたのだった。

 サイコヒーリングを自らにかけ、傷を癒やしながらオレは決意を新たにした。

「オスカー、必ず助ける! インペリアルナイトの名誉にかけて!」

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