第2話飛んできた電波
トレーニングを続けるある日のこと、オレのところに電波が飛んできた。
「何だ? コレ?」
そう思いつつ受信してみる。
「ふむふむハハーン。わかったぞ」
名探偵みたいなことを言ってみたが、実はさっぱりわからない。
もう一個電波が飛んできたので、それも受信してみる。
パラボラアンテナをヘルメットにした、パラボラヘルメットが無くても受信できる。いい時代になったものだ。
この十年で時代は良い方に変わった。
電波を受信すると、その電波はこんなことを言い出した。
【ライネス、ライネス、聞こえますか? わたしはアンナ、アンナです】
女の子の声だった。かわいらしい感じの。
オレはさらに耳を傾ける。
【ライネス、わたしは待っています。待っています】
アンナという少女が何を求めているかはわからないが、オレは会ってみたいという気持ちになってきた。
そうしなきゃならないような気がするのだ。
「どこ? どこにいるの?」
オレはおもむろに聞いてみる。
それが向こうに伝わるかはわからないが。
【ああ、ライネス、聞こえたのね? わたしはあなたが来るのを待っています】
時間なのか、それともサイキックパワーが切れたのか? そのままアンナの声は聞こえなくなった。
オレはアンナに会いに行くことにした。どこにいても必ず会いに行く。待っててね。
というか、電波が受信できるようになるなんて、これもPSI研究所で日々トレーニングをしているからだろうか?
もっとも筋力トレーニングしかしてないさせてもらってないけどね。
この調子なら行った甲斐もあるというもの。
でもどこを探せばいいのか? わからない。
PSI研究所に通い続ければまた電波が飛んでくるかもしれない。なーんて甘い期待をオレは抱いていた。
次の日、学校に向かったオレは友達に聞いてみた。
「この辺りで、『アンナ』なんて女いないよね?」
すると友人のノッチは驚いた顔をしていた。
「隣のクラスに、いるじゃん」
は? 隣のクラス?
全くの盲点だった。あのアンナが隣のクラスにいる?
「ノッチ、すまんまた後で話そう」
ノッチはまだプレイ中のゲームの話をしたそうだった。しかし、オレはそんなノッチを置き去りにして、隣のクラスへ向かった。
オレの小学校の五年生は三クラスあった。
不良ばかりの一組、変態ばかりの二組、アホの三組。
そんなイメージがある。
アンナという女の子がいるのは、三組らしい。アホだったらどうしよう? 少しだけ考えてしまう。ちなみに、オレは二組だ。変態なのかな?
恐る恐るオレは三組をのぞいてみる。
野郎どもはやはりアホなことをしていた。
押しくらまんじゅうみたいなことを教室の奥でやっていた。
女子はというとそれを見て笑っていた。
そんな中に彼女はいた。
ピンクのワンピースを着た、ブロンドヘアーの彼女。
「ああ、彼女がアンナだよ」
ノッチだった。ノッチが指さしたのは、やはりピンクのワンピースを着た、ブロンドヘアの女の子だった。
か、かわいい。
あんな子がオレに電波を送ってきた、あのアンナだったいいのにな。
そう思っていたら、アンナもこちらに気づいたらしい。
こちらに手を振り、にこりと笑みを浮かべている。
オレはしどろもどろになり、カチコチに固まってしまった。
ロープでくくりつけられたような感じ? いや、氷付けになったような感じだ。
自慢の筋肉も緊張で固まってしまった。
そんなオレを見て、アンナは笑顔だった。
オレはアンナにむかって歩き出そうとした。するとノッチが手で制してくれる。
「ライネス、隣のクラスだぞ?」
オレはハッとなる。この小学校には暗黙のルールがある。自分のクラス以外は入らないというものだ。
入ったヤツは、あんまいい顔をされない。のけ者になる可能性だってある。それだけは避けたいだからノッチはオレの恩人だった。
三組中に笑顔を振りまくアンナに、近づくことすらできない。オレの心はやきもきしていた。
「どけ、邪魔だ」
後ろから突然言われ、オレとノッチは道を開ける。そこにいたのは先日、ビームを出して宇宙人のキャトルミューティレーションからオレを守ってくれたヤツだ。
「キミは」
ヤツはそんなオレを鼻で笑い、問いに答えることなくクラスの中へ入っていった。
そしてヤツはアンナの席の前へ行き、彼女に話しかけた。
何を話しているかは聞こえないが、楽しそうにはしている。
オレは「ぐぬぬ・・・・・・」と言うのが関の山だった。
「アレ、シゲサトだね」
ついオレは復唱する。そいつは誰だ? とそんな感じにね。
「ああ、一組の不良の一人。シゲサトだよ」
一組の組員だったか。道理で無法者だ。
授業開始のチャイムが鳴る。
「ライネス戻ろうよ」
そんなノッチの声に促され、オレは生返事で二組に戻る。
放課後、PSI研究所にオレは行く。PSI研究所に行くことは、オレのいつものパターンになろうとしていた。
オレはいつも通り、筋力トレーニングに励んでいた。
鉄アレイを持って、腕を伸ばしたり縮めたり。を繰り返していた。
「何を悩んでいるんじゃ?」
「老師・・・・・・」
老人が現れた。ちなみにハカセとは別人だ。老師はトレーニングを見てくれる人という訳でもなく、サイキックパワーを高めてくれる訳でもない。ただそこにいる、不思議な人だった。
「実は、カクカクウマウマで」
オレはテキトーに説明する。シゲサトのこと、アンナのこと、ノッチのこと。
「なるほどのう、暗黙のルールか」
老師は顎を触りながらニコニコ笑っている。
老師は常に笑みを絶やさない。見習いたい。
「ライネス、いいか? 第一のルールは、ルールが無いということなんじゃ」
ルールが無い? どういうことだ? 少し考える。
そうか! わかった!
オレはルールに縛られすぎていたということだろう。本来人間はもっと自由なはずだ。だからオレももっと自由に生きてもいいんだ!
老師の教えを心に胸に刻もう。
そう思った。
その日の筋力トレーニングはかなりはかどり、いい汗がかけた。オレはつくづく思う。もっとアクティブに生きねば! とね。
「ほれ」
老師から何かを手渡しされた。
手の中で何かが破裂する。
「あっち!」
爆竹だった。
「フォフォフォ・・・・・・文字通りハッパをかけてやったわ」
老師の心憎い演出に、オレは脱帽した。
「へへっ、老師にはかなわねーや」
次の日、ノッチが制止するのをオレは振り切り、アンナに会うため三組へ向かった。
「あら、やっと来れたのね?」
「うん、やっと来れたよ」
オレもアンナも笑い合った。アホのように笑った。これも三組の教室に入ってきたおかげかもしれない。
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