ビッグフォレスト青春白書

ぴいたん

行け!ライネス!ピースアイランドの星!

第1話ピースアイランドの星

 桜の花が咲き乱れ、なんて歌があったな。そんなことを思い出していた。

 今日あたりはもうそんな感じだった。

 桜の花がヒラヒラと舞い散り。地面は桜の絨毯となっていた。

 風が頬をなでる感じはくすぐったく、オレの心は新学年ということでわくわくとドキドキが交差していた。

 遂にこのオレこと、ライネスも小学五年生となった。最高学年って訳じゃないけど、でも小学校も残すとこ二年。残りの小学校ライフをめいいっぱい楽しみたい。この青い空にオレはそう誓った。

 お気に入りのキャップを目深にかぶり直し、リュックを背負い直した。

 さあ、新しいクラスと席だ。十分に楽しもう。


 その日は校長先生のチョットだけ長い話を聞き、オレたちはクラスで新しい担任の先生の挨拶を聞いて、それで帰った。

 いわゆる始業式だから、早く帰れたのだ。

 明日からは授業が始まる。しっかり勉学に励まないとな。

 なーんて心にもないことを思いつつ、住んでいるマンションの目の前にある公園にさしかかった。 時間はお昼になる前。ちょっとだけ遊んでから帰るかなあ? そんな思いに駆られていた。

「キャーッ!」

 悲鳴だ!

 誰のかはわからないが、草葉の陰から悲鳴が聞こえてくる。

「助けなきゃ!」

 大人を呼んでこなきゃと思う前にオレはそう思った。

 オレは声の聞こえた方へ走る。

「なっ!」

 それを見たオレは思わずそんな声を上げてしまった。

 銀色の全身タイツを身につけた、オモチャの光線銃らしきものを持ったヤツがそこにいたのだ。

 オレは考える前にそいつに飛びかかっていた。そして頭を殴る殴る殴る!

 しかし、銀色全身タイツには全く効いていない。コイツ、ただの変態じゃない。

 銀色全身タイツは、オレを振り払う。

「なんて力だ!」

 思わず出た言葉通りだ。コイツは人間離れした力を持っている。明らかに一般成人男性よりも強い力だ。

 まさかコイツ・・・・・・!

「宇宙人?」

 オレは戦慄する。宇宙人なんているとは思わなかった。むしろそんな話が出たらバカにしてかかっていた。

 でも現実にはここにいる。

 宇宙人は、女の人を抱え上げると、オレに向かって手を伸ばしてきた。

 どうしたことだろうか? 急に眠気が・・・・・・。これはマズイ。このまま寝たら絶対何かされる。

 どっか知らないところに連れて行かれ、良くて標本にされる。もしくは卵を産み付けられる。

 どっちにしても死は避けられない。

 死、死、死。

 恐怖を感じるまでもなく、オレの意識は徐々に薄れていく。

 後一秒で眠る。そんなタイミングだった。

「見てらんないゼ」

 オレの後ろから少年が現れた。

 宇宙人のサイコキネシスが切れたのか、オレの眠気は背中に冷や水を流し込まれたように一気に覚める。

 オレはオレはその場から離れる。

 そして、やってきた少年の後ろまで後退する。

「あ、アイツは!」

「宇宙人だ」

 そのあっさりした答えに、オレは驚く。コイツ、宇宙人と知っているのか?

 やってきた少年は、指先を宇宙人に向ける。

「コイツ程度なら、指先一つでダウンさ」

 少年の指先から、光線が発射された。

 放たれた光線は軌跡を追う前に、宇宙人に命中。オレは顎が外れそうになるほど驚いた。

「い、いいい、今のは?」

 逃げた宇宙人を追おうともせず、少年は女性に手を当てていた。

「PSI、超能力だ」

「ち、超能力? あの念動力とか、心を読むとかの、怪しい?」

 少年はそんなオレの言葉に苦笑いする。

「その超能力だ」

 女性はまだ前後不覚という感じだが、目を覚ました。

「今のも?」

「そうだ、サイコヒーリングだ」

 少しだけ、ホントに少しだけだけけれど、オレは超能力を信じ始めていた。

 まだ、いつの間にかヴァーチャルリアリティを見せられているんじゃないか? とどこかで思ってはいるがね。

「もし、この力を使えるようになりたかったら、PSI研究所に足を運ぶといい」

「ぴーえすあいけんきゅうじょ?」

「そうだ、そこの四号マンションの地下にある」

 少年は立ち上がり、そのままオレをもう一瞥する。

「ま、お前じゃ無理そうだがな」

 オレはほんのチョッピリ、いや、かなりむかっ腹が立った。

 お前には出来ないだと? やってみる前から否定されるのはかなり腹が立つ。

 オレはフンフンと鼻息荒く帰宅し、お昼のミートソーススパゲティを平らげ、食べ終わって食休みを十分とった後、お気に入りのキャップをかぶり、何故か我が家にあるバットを手にして、四号マンションに向かった。

 四号マンションは隣のマンションだから一分でたどり着いた。

 地下なんてあったかな? と思いつつ、四号マンションのエレベーターに乗ってみる。

 ゴウン・・・・・・と音を立て、オレを乗せたエレベーターは動き出した。もちろん下へ向かって。

 浮遊感の後、若干重力がかかった感じを受け、エレベーターは地下一階で停止した。

 ドアが開く。

 扉の上には毛筆で、「PSI研究所」とある。

 オレはドアを叩いてみる。

 と、叩いた後で、インターフォンが有るのに気づいた。ちょっと気恥ずかしい。

 ボタンを押す。

「はい、どなたかな?」

 老人の声だった。フガフガとしたしゃべりから、この人物が入れ歯であることを想像した。

「オレ、ライネスっていいます。ここに来れば、宇宙人と戦える力が手に入るって聞いて」

 すると声の主は、「何? 宇宙人じゃと?」と、若干の興奮を隠しきれない様子だった。

 甲高い音を立て、扉が開く。

「入りなさい」

 ぐるぐるメガネの低身長な老人は、オレに室内に入るよう促した。

 今になって思う。この時オレは人生で最大の決断を無意識にしていたんだと。

 オレ「さあさあ」と、促されるまま、室内へ入っていった。

「ようこそPSI研究所へ。じゃ」

 何に使うかわからない器具がたくさん置いてあった。

 ベンチプレス、鉄アレイ、ワセリン。

 貼ってある張り紙には、「肉体美」と書かれていた。

 オレは頭に「?」を浮かべつつ、ぐるぐるメガネの老人に聞いてみる。

「PSI研究所? ジムじゃなくて?」

 ぐるぐるメガネがキラリと光った気がした。

「そうじゃ。あれらをPSI、つまりサイコキネシスで動かすんじゃ」

 な、なるほど。あれくらい重いものを持ち上げられれば、いっぱしということ、なんだろうか? オレは一人納得しつつ、老人の話を聞く。

「まあ、スワリタマエ」

 何故カタコトなのか? 意味はわからないが重要な気がしてきた。

「ワシはこのサイキック研究所の所長、ハカセじゃ」

「ど、どうも」

 一応上目遣いで挨拶をする。ハカセっていう名前なんだろうか? よくわからない。

「して、先ほど言っておった宇宙人とはどういう意味じゃ? もしや出会ったのか?」

 オレは首肯し、ハカセに先ほど有ったことを伝えた。チョッピリだけ、オレの活躍を上乗せしてだけどね。

「なるほど、野良スターマンに出会ってしまったか」

 オレは聞き返してしまった。

「アイツはスターマンって言うんですか?」

 ハカセは首を縦に振り、重要な問題のように話し始めた。

「奴らはワシらの住んでいる、この地球を乗っ取ろうとする侵略者じゃ」

 心当たりがあった。確かに奴らは女の人を捕まえて、キャトルミューティレーションしようとしていた。オレもその二号になりそうだった。

「ワシらはそんなスターマンから、地球を守らねばならぬのじゃ」

 もっともな話だ。このままでは地球は乗っ取られてしまう。その前になんとか撃退しなければいけない。

「しかし、面と向かって戦いを挑んでも、無理じゃ。何せ奴らはとんでもない力を持っておるからの。」

 確かにそうだった。あの力は異常だった。多分、今オレが持っているバットも簡単にへし折られるんじゃないかな? ポキッと折って食べるアイスのように。

「なので、奴らに対抗するためには、サイキックパワーしかないんじゃ」

 そういうことだったのか! と、オレは若干の興奮気味に、前のめりで話を聞く。

「どうすればその、サイキックパワーを手に入れられますか? 教えてください」

 オレはハカセの肩を持ち、ガクガクと揺らす。若干メガネがずれたが、ハカセはそれをなおし、オレに向き合う。

「そうじゃな、まずは潜在パワーの測定をしてみようかの? 人によってはサイキックパワーが全くないヤツも居るからの」

 全くないヤツもいるのか。もし、オレにそのパワーが無ければ? うう、震えてきた。

「大丈夫じゃ。血液検査と、ヘッドギアでの脳量子波検査、どっちがいいかの?」

「ヘッドギアでの脳量子波検査でお願いします」

 ハカセの提案をオレはコンマ一秒で答えた。

 だってハカセの持っている注射器、血がついてるんだもん。絶対使い回しだもん。

 この年で肝炎になる危機を脱したオレは、ヘッドギアを被せられる。

 ハカセはどこからともなくタブレット端末を取り出し、何かシュッシュシュッシュやっている。

「おお、これは」

「どうしたんです?」

「なかなかの数字が出ておる。チミはなかなかたぐいまれな存在かもしれんのう」

 ハカセはファファファと笑いながら、タブレット端末を腰の後ろにしまった。

「じゃあ、オレ!」

「慌てるな、チャーハンはオカズだ!」

 意味はわからないが、慌ててはいけないことだけはわかった。

「千里の道も一歩から。「はじめの独歩」というマンガも有るじゃろう。それに習い、まずは簡単なトレーニングから始めようかの」

 オレはそんなマンガ知らないが、きっとハカセは正しいのだろう。オレはヘッドギアを外し、キャップを目深にかぶり直して、ハカセに促されるまま筋力トレーニングを開始したのだった。


 トレーニングを始めて三日がたった。オレの体は特に変化はなかった。

 当たり前だ。三日でマッチョになれるんだったら、世間はナチュラルビルダーでいっぱいだ。

 ちなみにナチュラルビルダーとは、ステロイドに頼らず、美しい肉体を作り上げる、ボディビルダーのことだ。

 オレも早くいっぱしのビルダーとなり、美しい体がほしい。

 あれ?そんな話だったかな?

 少し考える。

 ベンチプレス十キロを上下させながら考える。しかし、答えは出ない。

 って、ちょっと待てよ? アレ? スターマンに対抗するために、力で叶わないからサイキックパワーを鍛えるんじゃなかったっけ?

 なんで己の肉体を鍛えてるんだ?

 オレはそれをハカセにぶつけてみた。

「そのことに気づいてしまったか」

 気づくよ! 誰でも気づくよ! オレは三日かかったけどね。

 それでもオレはトレーニングの手を休めない。

 ああ、これが洗脳というやつなのか?

 一抹の不安がよぎる。

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