第7話 味方だよ
「星野さんは大丈夫だった?」
星野さんも健流と同じく午後一の授業は遅刻したみたいだ。
「女の子には必殺のセリフが有るから大丈夫だよ」
ニヤリと瞳が笑う星野さん。何だ? 必殺のセリフって?
「健流はコッテリ絞られたようだが」
「安心しろ! 俺は全てを黙秘した!」
「……で、戦利品は?」
「数学の教科書10ページ写して明日迄に提出」
涙を流す健流。
「徹夜が出来そうで良かったな」
笑いを噛み殺す俺。
「お裾分けあげようか」
ヒクヒクと青筋を立てて微笑む健流に、俺は丁重にお断りをする。
「要らねぇよ。それでクリ姉ぇは何したんだ?」
星野さんが昼休みの事件を話してくれた。
【アケミ視点】
昼休みも後10分って所で、教室のドアを開けて、まさかまさかの久莉彩さんが入って来た。
「久莉彩さん!」
私がそう言うとクラスの全員が久莉彩さんに注目した。って言うか
「おー、星野妹ぉ!」
私は姉の関係で久莉彩さんとは顔見知りだった。久莉彩さんは、たまに私の家に姉との勉強会とかで遊びに来たりしている。
「どうしたんですか?」
私は久莉彩さんに駆け寄り、何をしに来たか聞いてみた。クラス全員が聞き耳をたてている。
「芭月ちゃんに会いに来たよぉ~」
私はびっくりして芭月を見るが、クラスのみんなは芭月って誰? って状態だ。
極太赤縁眼鏡に三つ編みツインテールの背の小さい女の子。人と話すのが苦手で、今では私以外、誰も彼女とは話しをしていない。
素朴で無口な女の子はクラスのみんなから忘れられた存在であり、彼女もそれを望んでいた感がある。
しかし私が向けた視線をみんなは辿って、その女の子へとたどり着く。
久莉彩さんもその視線を辿り、芭月に気が付き、芭月の机の前まで行った。
「芭月ちゃん?」
「……はい」
芭月は俯いて小さい声で一言答えた。
「昨日はライン楽しかったね」
「……はい」
やはり俯いたまま答える芭月。久莉彩さんはその場にしゃがみ
「桐芭の事、お願い出来るかな?」
久莉彩さんは、俯いていて見えない芭月の目を正面からじっと見ていた。芭月も視線に気付き顔をあげる。
お互い瞳と瞳が向かい合っている。そんな芭月の姿に私は少し感動した。頑張れ芭月!
「わ、私は……あの……」
しどろもどろしている芭月だが、視線は久莉彩さんをじっと見ている。
「わ、私は……強く、強くなりたいです……。だ……だから……私は桐芭君に……」
芭月は瞳に光るものが溜まり始めた。久莉彩さんは立ち上がり、力強い言葉を言ってくれた。
「オッケー芭月ちゃん。私は芭月ちゃんの味方だよ。困った事があったら何でも言ってね。アドレス交換しよ」
優しく微笑む久莉彩さんを見て、ピキっと固まってしまった芭月の元に私は駆けつけた。彼女のスマホをカバンから取り出し、彼女の手となり久莉彩さんとアドレス交換をした。
久莉彩さんは颯爽と立ち去って行くが、ドアの所で更に爆弾を落とした。
「芭月ちゃん、今後家に遊びに来てねぇ~」
芭月にニコニコと手を振り久莉彩さんが立ち去った後の教室は大騒ぎとなり、クラスのみんなが芭月を取り囲もうとした。
「みんな待って!」
私は大きな声でみんなを制した。
「い、色々と、色々とあるのよ、この件は! だから今はそっとしておいて欲しい!」
そう言いながら仲の良い女の子にアイコンタクトをとる。
ーウインクパチパチ(情報少しリークするから協調して)
ーウインクパチパチ(了解)
結局女の子全員にアイコンタクトは行き渡り、暴走しそうな男子を食い止め、予鈴が鳴ってその場が収束した。
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