22-1 入部する?

 透は待っていた。

 柴北学園の二階、特別教室等の廊下。

 そこで透は、麻尋・京真と共に一人の人物を待っていた。

 事の発端は先日の女子会。

 そこでVWO、つまりゲームを部活としてやるという案が出たのだ。

 透は乗り気ではなかった。

 透はゲームに対して真剣に向き合っている。

 それこそ世界の強豪と渡り合えるほどだ。

 それほどの熱意を持つ者と軽い気持ちで入部する者。

 両者が共存するのは難しいと透は感じていたのだ。

 それは驕りではなくまだ見ぬ部員を心配しての事。

 自分の好きなゲームを好きになってほしい。

 そういう純粋な気持ちから部活としてのゲームを敬遠しているのだ。

 

 しかし、麻尋はそんな透の思いを気にもせず創部をすると言い出した。

 そして麻尋は、生徒会副会長でもある先輩の美景に依頼したのだ。

 それはVRゲーム部の創部許可。

 美景から生徒会長への直接交渉である。

 恐らく難しい任務になるだろう。

 麻尋はそう感じ、美景に心配の眼差しを送っていた。

 それに対し、美景は麻尋を優しく抱きしめた。

 手を離すと美景は、とびきりの笑顔で麻尋に「任せなさいな」と告げる。

 そうして生徒会室へと消えていったのが10分前の出来事。

 3人は廊下で静かに時を過ごしていた。

 覗き込むと生徒会室の入り口が見える廊下の多目的スペース。

 そこは学生棟の喧騒とは全く異なる世界だった。

 

 ガラッという大きな音が廊下に響く。

 3人は一斉に廊下の先へと視線をやる。

 美景が廊下に出てきていた。

 美景は3人の姿を確認すると、笑顔を見せた。

 大きく手を振りながら、廊下を走って駆け寄る。

 その一歩一歩に呼応するように揺れる2つの大きな果実。

 3人の視線は自然とそこに集まった。

 でかい。

 3人は同じことを感じていた。

 以心伝心である。

 そしてその事実に気付いた透は京真に肘打ちをした。

 モロに食らった京真はうずくまり、桃源郷を覗くことができなくなった。


「せんぱーい!」

「まひろーん!とおるーん!」

「どうでしたか!?」


 元気な麻尋の声とほわほわとした美景の声が廊下に響く。

 透は当初は乗り気でなかったはずだが、腹を決めて美景に聞いた。

 すると美景はいつもの口調で答えた。


「ダメだって~」


 ダメだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る