20-5 恋バナする?

「兄さんと付き合うならどんな人がいいか、ですか……」


 和己は考えていた。

 しかし、すでに答えは決まっていたのだ。

 上手く言葉が見つからない和己は思ったことをそのまま言う事にした。


「おせろさんみたいな人がいいですね」

「えっ、私か!?」


 ボーっとしていたおせろは驚きで声が裏返った。

 自分の名前が挙がるとは夢にも思っていなかったのだ。

 

「でもこんな話してても意味無いだろ」

「何でです?」


 物寂しげな表情のおせろ。

 先ほどから口数が少なかった。

 久しぶりに話す声もどこか弱弱しい。

 そんなおせろを心配そうに見つめる和己。

 和己はおせろの言葉の真意を問う。


「だって京真は麻尋と付き合ってるんだろ?だったら私の出る幕なんて無いじゃないか……」


 おせろはそんな卑屈な事を言っていた。

 先ほどからおせろが大人しいのはこれが理由だった。

 麻尋と和己のやりとりから、京真に彼女がいると思っていたのだ。

 そしてそれが麻尋であるとおせろは確信していた。

 しかしそれは勘違いなのである。

 麻尋は京真と特別な関係といったが付き合ってはいない。

 京真に彼女はいないのである。

 恋人役などというややこしい関係の透はいるが……。


「別に付き合ってないよ?」

「へ?」

「特別な関係ってのは主従関係みたいなものだよ」

「そうなのか、京真!?」

「恥ずかしながら……」

「そ、そっかぁ……」


 おせろは胸を撫で下ろし、椅子にぐったりともたれ掛かった。

 隣に座る京真は、そんなおせろを不思議そうに眺める。


「あっれ~、どうしたのおせろちゃん。京真に彼女がいたら困ることでもあったのかな~?」

「別にそんなことはないけど!」


 煽るようにおせろを追い詰める麻尋に、おせろは焦って大声を出す。

 その際、視界の端で京真に見られていることに気付き、目を逸らした。

 

「ふ~ん。じゃあ、おせろちゃんは幼馴染としてどんな子が京真君の彼女に相応しいか教えてよ」

「京真の、彼女……」


 おせろは京真をちらりと見た。

 京真の1本に結った長い髪が首元にかかっている。

 きっと京真の彼女は、この綺麗な髪に細い指で触れるのだろう。

 それはこの中の誰かかもしれない。

 誰なら自分は納得できるのか。

 おせろはじっと京真の黒髪を見ながら考える。

 しかし、答えは出ない。

 どうしても納得できない。

 その場所は、京真の隣には、自分がいたいと思ってしまう。

 他の誰かが京真の彼女になるなんて、嫉妬せずにはいられない。

 そして、おせろは我に返る。

 おせろの言葉を待つ面々。

 何か答えを言わなくては。

 おせろは口を開いた。


「く、暗くなってきたし、そろそろ帰る時間じゃないか?」


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