20-4 恋バナする?

「この前、私のお兄ちゃんが彼女と別れたらしいんだよ」


 恋バナの一番手に選ばれた麻尋が真剣な顔つきで話し始めた。

 しかし、それは自分の話ではなく、兄の話である。

 当然周りは納得がいかなかった。


「僕は皆越さんの恋バナが聞きたいんですけど」


 その不満を口に出したのはまたもや和己。

 とはいえ、周囲の面々も同じ気持ちで頷いている。


「まあまあ、最後まで聞きたまえよ。和己ちゃんも無関係じゃないかもだから」

「僕が……?」


 意味深な言葉に和己は勢いを失った。

 そして再び麻尋が話し始める。


「彼女とは高校時代から付き合ってたけど、高校卒業を期に別れたんだって。ここまではよくある話だよね」


 実によくある話だ。

 違う大学に通い、違う県に住めば遠距離恋愛になるのは必至。

 そうすれば自然消滅に近い形で別れるカップルは多い。

 だからこそ高校での恋愛は高校までとする事は実によくある。


「でもね、私のお兄ちゃんと彼女との距離ができたのって、去年の夏ぐらいからなんだよ……」

「受験勉強で忙しくなったとかじゃないの?」

「私の見立てではそうじゃない。たぶん他に好きな人ができたんだよ」

「うそ!?あの真面目そうな尋生さんが浮気……!?」


 透は麻尋の家に行った時、麻尋の兄と会ったことがある。

 皆越尋生は大学1年生の実直な印象のある男だ。

 麻尋に似て顔もいいが、女遊びをするようには見えない。

 そのため透は驚きを持って受け止めていたのだ。


「まだ浮気って決まったわけじゃないけどね」


 麻尋は両手を上に向け、呆れた様子で話を終えた。


「それで、その話のどこが僕と関係あるんですか?」


 和己は小首を傾げて麻尋に問う。

 麻尋はその言葉に応えるように、体をずいと前に出して話し出す。


「それでここからが本題。私のお兄ちゃんの彼女って事は、将来は私のお義姉ちゃんになるわけでしょ?」

「なりますね」

「それがどこぞの浮気女だったら妹的にはキツイわけよ」

「それは、そうですね……」


 和己はいつもの無表情のままだが、思う所があるようだ。


「ってことで、お兄ちゃんの彼女ってどんな人なら相応しいのかを皆で考えたいわけなの。特に同じく兄を持つ和己ちゃんにね」

「それで僕に関係があるって言ってたんですね」

「そういう事。和己ちゃんは自分のお兄ちゃんと付き合うならどんな女の子がいいと思う?」

「それは……」


 和己は目を閉じて考え込んだ。

 慎重に言葉を選んでいるのだ。

 その言葉は京真の彼女への啓示。

 将来の家族としてどんな人物が相応しいのかを示す行為になる。

 もちろん和己はおせろを家族として迎えようと画策している。

 そのための言葉、そのための条件を和己は必死に探しているのである。


 だが、それはすでに麻尋の術中だった。

 麻尋は危険な恋バナの一番手をノーダメージですり抜けた。

 その上で、その役割を和己に押し付けることに成功していたのだった。

 

 

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