18-3 好きな人?

「で、あなたは誰ですか」


 京真の家の玄関には3人が残されていた。

 京真の妹の和己。

 京真の幼馴染のおせろ。

 そして透である。

 和己の問いは透に向けられたものであった。

 

「えっと、私は……」


 透は答えに迷っていた。

 一般的な回答としての友人。

 VWOというゲームにおいての師匠。

 そして師弟関係の条件としての恋人役。

 どれを答えるべきなのか迷っていたのだ。

 透は二人の顔色を伺った。

 和己は鋭い視線を向けている。

 それは先ほど、和己の性別を勘違いしたから。

 だけではない。

 和己は、透と兄との関係を見定めようとしているのだ。

 おせろは心配そうな表情をしていた。

 なんとなく透とは仲良くなったがおせろ。

 その実おせろは、透と京真の関係が気になっていたのだ。

 そんな二人の様子を見て透は悩んだ挙句答えた。


「私は京真のゲームの師匠で、後鳥羽透っていうの。よろしくね」


 透は師匠を選択した。

 これが一番この場を丸く収められると思ったのだ。

 加えて、透はお姉さんっぽく振舞った。

 穏やかな声色で、上品に挨拶をしてみせたのである。

 それは、可愛くてしかたのない和己にアプローチするためだ。

 透は和己を妹のように可愛がり、姉のように慕って欲しく思っているのだ。

 

 だが、和己の思惑は全くの逆だった。

 和己はおせろの事がめちゃくちゃ好きなのである。

 何なら本当の姉になってもらいたいほど憧れている。

 そのために、兄である京真には是非ともおせろと付き合ってもらいたい。

 ゆくゆくは結婚し、おせろには義姉になってほしい。

 そう考えているほどなのだ。

 そのため、兄がおせろを避けているなど許しがたい事。

 他の女を家に連れ込むなど言語道断。

 つまり和己は、透の事を完全に敵視しているのである。


「へえ、兄さんの師匠なんですね。は」

「和己ちゃん、できれば下の名前で呼んで欲しいな」


 和己は透をあえて名字で呼ぶことで、お前は他人だと強調する。

 しかし、透は自分の名字が嫌いなので名前で呼んで欲しがった。


「いえいえ。そんな馴れ馴れしいことできませんよ

「そんなこと言わないでさ。恥ずかしいなら透お姉ちゃんでもいいよ?」


 意地でも名字で呼ぶ和己。

 対する透は欲望のままにお姉ちゃん呼びを提案する。

 

「嫌です。絶対に呼びません」

「え~、一回でいいから呼んでよ~」

「ダメです!」

「そこを何とか~」


 和己の中でお姉ちゃんはおせろと決まっているのだ。

 それでも食い下がる透は完全に欲望に飲み込まれていた。


「おせろさん助けてください!新手の変態です!」

「いいじゃん和己。名前で呼ぶくらい」

「おせろさんが言うなら」

「変わり身早っ!」


 おせろの言葉にはすぐに耳を貸す和己に思わず透は突っ込む。


「おい、透」

「生意気!でも可愛い!」

「か、かわっ――」

「照れてるのも可愛い!」

「照れてません。僕のポーカーフェイスが見えないんですか」

「僕っ子も可愛い!」

「おせろさん助けてください!変態がいます!」


 透の猛攻に耐え切れない和己はおせろに抱きつき助けを求めた。

 そんな和己を撫でながらおせろは言う。


「私の事も呼び捨てでいいんだよ」


 和己は赤い顔を上げ、口をパクパクさせてから小さな声を漏らす。


「お、お、おせろ……………………さん」


 その可愛さに透は悶えながら思った。


(中学生かよ!!!!)


 中学生である。

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