18-1 好きな人?

 京真がおせろの笑顔に見惚れていた時、玄関の扉が開いた。


「ただいま」


 玄関からの声が3人の耳に入る。

 京真は部屋の扉を開けてその声に応える。


「おかえり、和己かずき

「ただいま兄さん。お客さん?」


 穏やかな口調と幼さの残る声。

 そして会話の内容から、京真の兄弟だとわかる。


「京真の弟さん?」


 透は溢れ出る好奇心から、部屋からひょこっと顔を出した。

 そこには、玄関で靴を脱ぐジャージ姿の和己がいた。

 艶のある黒い髪、透よりも少し小柄な体格、中性的な顔立ち。

 京真と血がつながっているだけあり、整った目鼻立ちである。

 透の言葉を聞き、和己は無表情ながらも少しだけムッとした表情をした。


「いや、こいつは――」

「はじめまして。京真の千堂和己です」

「えっ、あっ、ごめんなさい……」

「いいんです。慣れてますから」


 京真の言葉を遮って、和己は自己紹介をした。

 中性的な顔立ちや見た目から判断が難しいが、和己は京真の妹だった。

 和己は普段から間違われることがあるようで、気にしてないと言った。

 ところが、実際はそうではない。

 ものすごく気にしているのだ。

 だからこそ、いまだにそのムッとした表情は治っていない。

 その上、本人はそのことに気付いていないのである。

 和己は無表情ながら、実に感情が分かりやすいのだ。

 そしてそれは初対面の透にも伝わっていた。

 

(何この子……、めちゃくちゃ気にしてる……。かわいい!!)


 透は和己の事をとても気に入った。

 透もボーイッシュだったころ、男性と間違えられたことがある。

 そのため和己に親近感を感じていた。

 しかし和己は透と違い、そのことを気にしている様子がある。

 透はそんな彼女のいじらしい姿がたまらなく可愛いと思ったのだ。

 加えて、一人っ子の透はかねてより妹が欲しいと思っていたため、もうすでに京真の妹である和己に夢中になっていた。


 だが、当の和己には夢中なものがあった。


「おせろさん!」

「おっ、久しぶりだな和己」


 和己は無表情のまま目を輝かせ、おせろに抱きついたのだった。

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