17-2 一緒にする?
透は歩いていた。
京真の家へと向かっていた。
この道を通るのは三日連続。
違うのは今日は3人でいるという点である。
透と京真とおせろ。
3人は放課後、学校から直接京真の家に向かっている。
玄関でばったり会い、公園で待ち合わせる必要がなくなった。
京真を先頭におせろと透が後ろに続く。
初対面でもないが、何故か3人はぎこちない関係にあった。
これから何が起こるのかという緊張感に包まれている。
主催である京真もどこかソワソワしている。
それが透とおせろの不安を煽った。
京真の家はおせろの家のすぐ隣である。
透はそう聞いていた。
だからそれほど移動に時間はかからないものだと思っていた。
実際、距離も時間も前日に道場へ行った時と大して変わらない。
しかし、体感時間では大きく異なっていた。
無言の時間がひたすら続き、ものすごく長い時間歩いたように透は感じていた。
「着いたぜ」
京真の声に透は視線を上げる。
そこには上品な一軒家が建っていた。
透は正直なところ、京真に似つかわしくない家だなと思った。
「ここが京真の家なんだ」
「それでこっちが私の家だ」
おせろが指を差す先にある家は、和の趣きも取り入れられた家。
裏には道場が構えられているため、その渋さが絶妙にマッチしている。
「上がってくれ」
京真がドアのカギを開ける。
家の中には誰もいない様子。
透は緊張し、おせろに助けを求めるように視線を向けた。
だが、おせろに透を助ける余裕はなかった。
「おせろ?」
「な、なんだ……?」
透は思わず声をかけた。
おせろの表情は引きつっていた。
まだ夏には早いが額から汗が噴き出している。
顔も赤いし、頭は働いていないようにも見える。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……じゃない、かも。うん、たぶん……」
透は心配になって来た。
もしかしたら体調不良かもしれない。
今日は解散して帰らせた方がいいんじゃないか。
透がそれを相談する前に京真が声をかけた。
「どうしたんだ二人とも」
「実はおせろが――」
「京真!」
透の言葉を遮るようにおせろが京真の名を呼ぶ。
京真は特に返事はしないがおせろの事を見ていた。
「シャワーとか浴びてきた方がいいか……!?」
「いや、いらないだろ」
「そ、そうか……」
「ほら、中入れよ」
「京真!」
家に上がるよう促す京真をおせろは再び呼び止める。
京真は不思議そうに振り返りおせろを見る。
「の、喉が渇いたから何か買ってくる!」
「いや、飲み物なら家の中にあるが」
「そう……」
「じゃあ中に――」
「京真!」
再三の呼び止めに京真は困惑している。
一方のおせろはもじもじとしながら言葉を探している。
「そうだ着替え!着替えして来るわ!」
「いや、大丈夫だから」
「あっ、うん」
京真は背を向け、玄関を進む。
京真が離れたのを確認して透はおせろに話しかけた。
「おせろ、逃げようとしてない?」
「ソンナコトナイヨ」
「嘘」
「ウソジャナイヨ」
透は心配して損をした。
おせろは体調不良などではない。
ただ、これから京真の家で起こる出来事に緊張しているのだ。
透は推察する。
京真の昨日の発言とおせろの言葉。
そこから導き出された結論。
おせろはこれから、エッチな事をされると思っている。
しかも、それは透と3人で行われると考えている。
透も同じように考えていた。
だが、今は違う。
透は自分よりも緊張して、もじもじしているおせろを見た。
それによって逆に冷静になることができたのだ。
冷静に考えると京真がエッチな事などするわけがなかった。
己を律するために幼馴染から離れようとする男だ。
そしてそれを本人に明かす誠実さも持ち合わせている。
そんな京真が勝負に勝ったからとおせろを我が物にするはずがない。
というより、そのつもりだったら京真が落ち着いていられるわけがない。
それは先日の買い物のときによく分かった。
京真は女性の扱いに慣れていない。
女性と接する時の京真は大抵、テンパっている。
しかし今日の京真は比較的落ち着いている。
つまり今日、おせろを女性として呼んだのではない。
恐らく大切な幼馴染として家に呼んでいる。
そして自分の事は、師匠として一緒に来て欲しいと頼んだのだ。
そう透は確信していた。
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