17-1 一緒にする?

 透は見届けた。

 京真がおせろに勝利する瞬間を。

 おせろが負けを認めた表情を。

 彼女は敗北しながらも清々しい笑顔を見せていた。

 負ければ悔しい。

 当然おせろにもそういう気持ちがあっただろう。

 しかも会話によって生まれた一瞬の隙をつかれたのだ。

 普通の試合ならば納得いかない結果だろう。

 しかし今回は違う。

 今回の勝負は、二人のわだかまりが基となって生まれたものだ。

 そしてそれは解消された。

 戦いの最中に京真が本心を告げたのだ。

 それによっておせろは、自分が京真を誤解していたと理解した。

 自分は京真に嫌われているわけではない。

 その事実が判明したことで、おせろは心から安堵していた。


 だが、別の問題が生まれた。

 それは、千堂京真が幼馴染をエロい目で見ている問題である。

 これこそが今まで京真がおせろを避けていた理由。

 そして今回の勝負の元凶である。

 これまで秘密にしていたこの事実を知られた京真。

 彼はおせろとの対決を制した。

 これは何を意味するか。

 ひとつだけおせろに命令をすることができるのだ。

 そしてその命令の中身は伝えてあった。

 

「おせろ、明日の放課後に俺の家に来てもらう。今日と同じ公園で待ってるぜ」


 京真は馬乗りの状態のままおせろに告げた。

 おせろは京真へ向けていた顔を横へと逸らす。


「…………わかった」 


 小さな声だった。

 おせろの頭の中は真っ白だった。

 京真の告白、勝負の決着、そして勝者の報酬。

 一度に多くの出来事が起こり、おせろは混乱していた。

 だからおせろは想像できないでいた。

 京真の家に呼び出され、何が行われるのかを。


 一方、透の頭の中はピンク色だった。

 透は、京真の言葉を総合的に判断してみた。

 京真はおせろをエロい目で見ている。

 そしてそんな彼女を家に連れ込もうとしている。

 これはもう、只事ではない。

 そう思わざるを得なかった。

 だから透は妄想していた。

 二人の間で行われる、何かを。


「師匠!」

「はいっ!」


 不意に話しかけられ、透の声は裏返る。

 京真は立ち上がり、おせろから離れると透の方へ近づいた。

 直前まで良からぬ妄想に浸っていた透はどぎまぎしながら後退る。

 目の前で京真が立ち止まると、透は改めて身長差を感じた。

 体格も女性のそれとはまるで違う。

 京真はこの肉体でおせろと何をするのだろう。

 透がそんな思考を再開する前に、京真は言葉を続けた。


「師匠も明日、俺の家に来てくれ!」

「えぇ!?」


 透の妄想は加速した。

 

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