16-6 一転攻勢?

 京真は赤面していた。

 腕ひしぎを耐えるため力を入れ続けているから。

 だけではない。

 おせろに自分の気持ちを赤裸々に告白したからだ。

 告げたからには反応が気になる。

 しかし、なかなかおせろからの返答はない。


「おせろ……?」


 名を読んでみるが返事はない。

 交差する姿勢のため京真から表情は確認できなかった。

 覚悟はしていたが不安になる京真。

 一方のおせろは、こちらも赤面していた。

 幼馴染からの突然のカミングアウトに驚愕。

 それと同時に欲情しているとまで言われたのだ。

 加えて現在進行形で京真は勃起している。

 京真の羞恥プレイはそのままおせろにも降りかかっていたのだ。

 しかもそれを同級生の透が眺めている。

 声も出せない程恥ずかしかった。


 しかし、そうも言っていられない。

 京真はおせろの言葉を待っている。

 京真も隠していた気持ちを伝えた。

 中身はどうあれ勇気を振り絞った行動なのだ。

 おせろは何か答えるべきだと思った。

 そして十秒ほど考えた後におせろは一つの疑問を口に出した。


「この勝負に勝ったら、京真はなんて命令するつもりなの……?」


 か細い声だった。

 普段の強気なおせろとは対照的な声。

 興味と不安と、少しの期待がその言葉に込められていた。

 言い切った後に唾を飲み込む。

 早く答えが聞きたいのに時間が経つのが遅く感じられた。

 そして京真が答える。


「明日の放課後、俺の家に来てもらう」

「えっ!?」

「それって!?」


 おせろと透は驚嘆の声をあげる。

 その時おせろの集中は途切れ、京真の左腕のホールドが緩んだ。

 刹那、京真は拘束を解く。

 身を捻り、素早くおせろに馬乗りになった。

 二人の体重差が歴然で、おせろは逃げることができない。

 更に京真は左腕をおせろの肩、あるいは胸の上に押し当てる。

 これでおせろの両腕の可動を封じた。

 そして右腕を振り上げる。

 京真の掌底がおせろの顔面を襲った。

 おせろは咄嗟に目を瞑った。

 どすん、という大きな音と衝撃が道場内に響き渡る。

 

 だが、おせろに痛みは無かった。

 恐る恐る彼女が目を開けると眼前には京真の顔があった。

 掌底はおせろの顔の横、床に向けて放たれている。

 床ではあるが、壁ドンのような格好。

 京真はわざと外したのだ。

 おせろは防御できなかった。

 京真が外さなければ軽い怪我では済まなかっただろう。

 おせろはもう一度目を瞑る。

 

「私の、負けだな……」


 京真はおせろに勝利した。

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