16-3 一転攻勢?

 京真は再び動き出した。

 左手で相手の襟を掴む左組み。

 その状態から京真が引手の右腕を強く引いた。

 おせろは掴まれている左腕を暴れさせて抵抗を試みる。

 おせろの意識が左半身に集中する。

 瞬間、京真は釣り手の左腕に力を込めた。

 襟を乱暴に持ち上げた。

 おせろがバランスを崩すのは避けられない。

 戦況がまた一変する。


 だが、誤算だった。

 京真が襟を引いたことで、ある問題が発生した。

 おせろの道着がはだけたのだ。

 武術においてはよくあること。

 しかし、京真にとっては致命的だった。

 はだけた道着から現れた峡谷に動揺した。

 目を奪われた。

 判断が鈍った。

 アンダーシャツ越しに存在感を主張する二つの山。

 曲線に沿って陰影が変化し、黒の濃淡が変わって見える。

 先ほどまで隠されていた分だけ衝撃は大きい。

 覆うものが失われ、ダイレクトに揺れが観測できる。

 その光景は、京真がおせろとの組手を避けていた理由そのものだった。


 そんな京真の集中力の欠如をおせろは見逃さなかった。

 おせろには理由は分からない。

 だが、千載一遇のチャンスをこれ幸いと活用するのだ。

 捕らえた京真の足を離し、緩んだ釣り手を振り払う。

 そしておせろは宙を舞った。

 釣り手として差し出された京真の左腕を狙った一撃のためだ。

 飛びつき腕ひしぎ十字固め。

 おせろが選択した技だ。


 京真は地面に倒れた。

 片足のみでおせろの体重は堪える事はできなかったのだ。

 地面に背中を打ちつけても、おせろの攻撃は続く。

 二人は仰向けのまま、体を十字に交差した。

 京真の左腕は、おせろの股の間に挟まれている。

 真っすぐ伸びたその腕は、彼女の胸の前でしっかりとホールドされていた。

 間接は逆方向に引かれ、一瞬でも気を抜けば骨折に繋がる。

 状況は1本の腕を狙った攻防に変化したのだ。

 京真は左腕をあらぬ方向へ曲げられないよう耐えるだけ。

 おせろは体全体を使って京真の腕を破壊しようとする。

 どちらが有利なのかは一目瞭然だった。

 京真が負けるのは時間の問題。


(これ以上は……!)


 攻防が開始してから数十秒経った。

 そこでやっと京真が声をかける。


「おせろ!」

「やっと降参する気になったか」

「もう限界だ……!」

「だったら負けを認め――」

「だから俺の本当の気持ちを先に伝える!」

「それって……」

「俺の腰を見ろ!」

「腰……?」


 京真の言葉に応じ、おせろは視線だけ移動した。

 二人とも仰向けの姿勢のため、おせろの位置からはよく見えた。

 京真の腰、あるいは股間の部分。

 道着の白が強調された、雪山のような巨大なテントがそこにはあった。

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