16-2 一転攻勢?

(まずい……!)


 京真は危険を感じた。

 片足を取られてバランスを取れない。

 ここから負けるパターンは幾つも考えられる。

 即座に打開しなければならない。

 京真はおせろの得意なパターンをそこから瞬時にはじき出した。

 投げ技と寝技だ。

 鍛えてはいるが、線の細いおせろが打撃で京真を倒すのは難しい。

 それにこれは稽古ではない。

 確実な勝利のために可能性の高い方法を選ぶはず。

 ここから打撃はない。

 京真はそう判断し、ガードを捨てた。

 体重を相手に委ねる。

 左足はおせろの脇を滑らせ、より前へと進めた。

 そして左手でおせろの横襟を、右手でおせろの左袖口を掴んだ。

 柔道で言うところの左組みに持ち込んだのだ。

 

「くっ……!」


 おせろは小さく声を漏らす。

 その声は予定外の事態に対する苛立ちだった。

 途中まではプラン通りだったおせろからすれば現状は不本意だ。

 不用意な前蹴りを誘って足を取った。

 あとは体で巻き込んで京真を転ばせる。

 最後に関節技を決めて勝利。

 そこまでのビジョンがあったのだ。


 だが、状況は一変した。

 京真が打撃の攻防を捨てたのだ。

 片足のまま組んで来るのはおせろにとって想定外。

 冷静に対処すれば左手の袖は掴まれなかったかもしれない。

 しかし、たらればを言っている余裕はない。

 現状左腕は掴まれ、右腕は京真の足を掴んでいる。

 この足を離したら完全な状態で京真と組むことになる。

 そうすればパワーで劣るおせろが負けるのは明白。

 つまりこの時点でおせろは右手を離すという選択肢を失った。


 場は膠着した。

 二人は力を込めた腕を引き合うも、拮抗しているため動かない。

 お互いここまでに凄まじい集中力を使っていた。

 そしてここからは力と技の勝負になる。

 呼吸を整えながら相手の隙を伺っているのだ。

 そんな中、不意に京真が口を開いた。


「おせろ……、お前強いな……」

「今更そんなこと……!」

「俺はおせろから逃げ続けてきた。避けてたんだ」

「知ってた。なのに何で戦う気になった」

「俺の本当の気持ちを伝えるためだ」

「本当の……気持ち……?」

「だから俺は負けない。必ず勝って願いを叶える」


 京真は再び動き出した。

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