16-1 一転攻勢?

 透は右手を振り下ろした。


「それじゃあ、はじめ!」


 京真とおせろの勝負の審判を任された透。

 審判などしたことがないため想像で開始の合図を出した。

 二人は真剣な表情で構えを取り向かい合っている。

 すでに数秒、お互いは出方を窺っていた。

 透は違和感を感じる。

 おせろが攻撃を仕掛けた時、その理由に気付いた。

 京真が消極的だったのだ。

 あくまでゲームの話だが透は京真と戦った。

 その時のプレイスタイルからすれば京真は速攻を好む。

 はずだった。


 攻めるおせろと守る京真。

 その構図が目の前に出来上がっていた。

 とはいえ、おせろの素早い打撃をただ受けているわけではない。

 京真は長い手足を活かしたジャブや前蹴りで近づかせないのだ。

 おせろが詰め寄ろうとする先に攻撃を置いておく。

 カウンターのような形で出される攻防一体の技。

 おせろはそれを嫌って一度距離を離した。


 透は息を飲んだ。

 目の前では現実の戦闘が行われている。

 透はゲームの中では数多の勝利を重ねてきた。

 しかし、リアルでここまでの動きができる人物を初めて見た。

 透は興奮している。

 体が熱くなるのが自分で分かった。

 もうすでに透は審判という役職を忘れ、観客となっていた。


 おせろは足を使うことにした。

 左右に動き、揺さぶり、攻め手を読ませない。

 京真もそれに対応しようと構えの向きを逐一変える。

 左手左足を前にするオーソドックスな構え。

 最適化のために位置を修正するほんのわずかな隙。

 おせろはそれを狙っていた。

 京真の背後に回ろうとする動きはフェイント。

 おせろは京真の懐を狙っていたのだ。

 反応が遅れた京真は左足で前蹴りを繰り出すが正面には入らない。

 照準がずれた前蹴りは弱点をさらけ出すも同然だった。

 おせろはわずかに身を捻りそれを躱す。

 そして、差し出された京真の脚を小脇に抱えることに成功した。

 京真は左足を、おせろは右腕を封じられた。

 1対1交換で有利なのはおせろ。

 京真は片足だけで体勢を整えなければならないのだ。

 

(まずい……!)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る