15-3 言う事を聞く?

 京真は道着に着替えていた。

 場所は道場。

 おせろの家だ。

 慣れ親しんだその場所で京真は深呼吸をする。

 京真がおせろと過ごしたのはほとんどこの場所だ。

 小さいころから彼女と切磋琢磨してきた。

 そして今、再び彼女と対面する。

 久々に相対する幼馴染に京真は緊張していた。

 戦い好きの京真にとって、緊張は珍しい事だ。

 目を閉じ、精神を統一する。


「さっき言った事、本当だな」


 おせろの声。

 京真にとっては聞きなれた声だ。

 しかし、今はその声さえも京真の精神を揺さぶる。

 

「ああ」


 京真は目を閉じたまま答える。


「本当に本当だな!」

「ああ!」


 確認するおせろに対し、唸るように答える京真。


「本当に負けた方が勝った方の言う事を聞くんだな!?」

「そうだ!」


 これが京真が提案した内容だった。

 京真はおせろに勝負を仕掛けた。

 これ自体はおせろが望んでいたものだ。

 昔みたいに勝負をする。

 1対1の組手。

 降参と有効打によって勝敗が決まるルール。

 これまでに二人で何度も行ったものだ。

 そこに京真は条件をつけた。

 勝った方が一つだけ命令を下せるという条件。

 乗ってこないならそれでも仕方ないと思った。

 しかし、おせろは乗って来た。

 勝つ自信があったのか、それ以上に戦いたかったのか。

 それは定かではないが勝負の舞台に上がって来た。

 あとは全力で戦うだけだ。


「言う事を聞くって、何でも!?」


 審判を頼まれていた透が動揺した様子で再度問う。


「ああ、何でもだ」

「何でもって何でも!?」

「どうしたんだ師匠」

「だ、だって何でもって……ねえ……?」

 

 京真は挙動不審な透に問いかける。

 すると透は焦りながらおせろに話を振った。


「何でも……、何でもか……」


 おせろは透の呼びかけに答えず、顔を伏せて呟いていた。

 焦る透はダッシュでおせろの元へ

 そして肩を揺すり、すぐ近くで呼びかけるのだ。

 

「何でもだよ!負けたら何でも命令されるんだよ!?」

「でも勝ったら何でも命令できるし……」

「本当にいいの!?変な命令されるかもだよ!?」

「変な命令?」

「その……、エッチな命令……とか」

「エッチな命令!?」

「声が大きい!」

「ご、ごめん……!」


 二人はこそこそと話している。

 しかしこの道場には今の時間、彼女達しかいない。

 だから結局、京真にも聞こえているのだ。

 京真は聞こえていないフリをして、精神統一を続けた。


「とにかくこの条件はやめた方が……」

「いや、それでも私はやる」


 おせろの決意は固かった。

 それは命令云々ではない。

 ただ純粋に京真と戦うことに対する熱意だ。 

 この戦いでおせろは勝利する。

 そして、自分は京真の隣に相応しいのだと証明したいのだ。

 おせろは自分の弱さが京真を遠ざけているのだと思っている。

 女だから京真には敵わない。

 もしそう思われているのだとしたら、その考えを覆したい。

 京真と一緒にいるために京真を倒したいのだ。


「始めよう」


 おせろは準備が完了した。

 京真の精神統一も終わっている。

 あとは透の合図を待つだけだ。

 

「準備はいい?」


 透の問いかけに二人は無言で頷いた。


「それじゃあ、はじめ!」


 3人にとって大事なバトルが始まる。

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