15-1 言う事を聞く?

 京真は機会を待っていた。

 透に話をする機会だ。

 前日のおせろとの一件を知っている透。

 京真は彼女にも事の顛末を見届けて欲しい。

 そういう思いから、声をかけるタイミングを窺っていた。

 

 昼休み。

 先に話を切り出したのは透だった。

 自分の席で腕を組み、考え込む京真に歩み寄る。

 

「京真、話があるんだけど」


 透は京真の名前をしっかりと呼ぶ。


「俺もだ。師匠」


 京真は透の名を呼ばなかった。

 それには理由がある。

 おせろとのことを透に話せば、きっと透は幻滅するだろう。

 そうすれば恋人役という関係も失われる。

 であればもう、透を名前で呼ぶ必要はない。

 むしろ不快感を感じさせないよう、事前に呼ぶのをやめるべきだ。

 そう考えていた。

 

 ただこの考えは、昨日透を名前で呼ばなかった理由とは違う。

 昨日京真は、おせろの前で透の名前を呼ばなかった。

 言いかけて、師匠と言い直した。

 それはただ、恥ずかしかっただけなのだ。

 それを透が気にしているなど京真は微塵も気づいていない。

 京真は話を続けた。


「今日の放課後、一緒に来て欲しい所がある」


 京真は透に伝えた。

 透は「わかった」と答えると離れていった。

 透の話は何だったのか。

 京真は放課後にはわかるだろうと気にしないことにした。

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