14-1 本当の気持ち?

 透は枕に顔を埋めていた。

 制服に皺がつくのも気にせずベッドに倒れている。

 帰ってくるなりこの体勢だ。

 体調が悪いという訳ではない。

 ただ透には考え事があったのだ。


「だから、私から逃げてばっかりで戦いもしないような卑怯者は嫌いだ」


 おせろが京真に放った言葉。

 その言葉に京真は何も答えなかった。

 ただ目を背けているだけ。

 そんな京真に正面に見据え、おせろは続ける。


「なんで道場に来なくなった?なんで私と戦わなくなった?前はあんなに一緒に修行してたのに!」


 おせろが京真を問い詰める。 

 感情が溢れ出し、次第にヒートアップしていく。


「私じゃ相手にならないか!?これでも沢山修行したんだ……!いつの間にか京真に背も抜かれて、それでも鍛え続けて、沢山の技も覚えたんだ……!」

「……」


 言葉と共に徐々に距離を詰めるおせろ。

 京真は彼女の言葉に反応し、一瞬顔を見るもすぐに目を伏せた。


「私が女だから……?だから私は、京真の隣にはいられないのか……?」

「そんな、こと……」


 話しながら涙を流すおせろ。

 それに気付き顔を上げた京真の声は小さくなって消えた。

 明確な否定をしない京真の態度に、おせろは涙を止められなかった。


「私はただ、昔みたいに京真と一緒にいたかっただけなんだ……」


 おせろは零れる涙そ道着の袖で拭い取る。

 そして、しっかりと京真を見据えて問いかけた。


「京真は、私の事が嫌いになったのか?」


 透は眺めているだけだった。

 恋愛の感覚が鈍い透にもわかることがあった。

 おせろは京真の事が好きなのだ。

 幼馴染として、だけではない。

 その一段階先の好きという気持ちを抱いている。

 そして、この質問は告白にも似たものだ。

 ここでおせろの言葉を否定するのは簡単だ。

 そんなことはない。

 そう答えるだけでいいのだから。


 しかし、おせろの求めている答えは違う。

 おせろは京真に、好きだと言って欲しいのだ。

 透は二人が道場へ向かっている時の表情を思い出した。

 久しぶりに会った二人が楽しそうに話をしている表情。

 透はその二人に追いつけずに、引き離されるばかりだった。

 今も同じだ。

 二人の間に透は入ることができない。

 たかが師匠。

 たかが恋人役。

 本物の恋人ではない透は、ただ見ているだけだった。

 京真の返答次第では、恋人役という関係も消えてしまうだろう。

 透はその覚悟を持って、二人を見届けることにした。


「俺はただ……、おせろの事が……」


 だが、京真の答えは聞けなかった。

 京真は、そこから先の言葉を言わなかったのだ。

 おせろはその場を走り去り、京真は俯いていた。

 しばらくして、おせろの父が呼びに来た。

 手伝いが始まる。

 透はそこで京真と別れ家路についた。

 最後にちらりと見た時、二人は少しも言葉を交わさなかった。


 

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