13-3 その女だれ?

 透はまたもや走っていた。

 もちろん尾行対象が走っているからだ。

 しかし、先ほどとは状況が違う。

 尾行対象は二人になった。

 「おせろ」と呼ばれる少女と合流した京真。

 二人は公園で会話を楽しむわけではなかった。

 二人は公園を出ると、すぐさま走り出した。

 交通系のカードなど必要なかった。

 その時、透は少なからずショックを受けていた。

 恋人役である京真が逢引きをしていたのだ。

 ハッキリ言って失望した。

 別の女性にばかり構ったことを謝罪した京真。

 お詫びにとプレゼントを渡した京真。

 そんな彼が翌日に他の女と会っていたのだ。

 彼女が恋人だったとしたらそれは仕方ない。

 しかし、透への謝罪は何だったのかと釈然としない思いがあった。

 あの言葉は嘘だったのか。

 透は憤る。


(でも、また勘違いしてるかもしれない……)


 一方で冷静な考えも頭に浮かぶ。

 そこで、真実を確かめるべく、透は尾行を続行した。

 京真の後を再び走り出した。

 透は息を切らしながら遠くの二つの背中を追う。

 京真の速さは相変わらずだった。

 しかし驚くべきはその横を走る少女だ。

 華奢な体ながら、京真と同じスピードで走っている。

 それどころか会話を楽しむ余裕すらある。

 赤い髪が走りに合わせて揺れる。

 透は、遠くからその姿を見て落ち込んだ。

 自分は彼女のようにはなれない。

 京真の隣には相応しくない。

 結局は自分のために京真を利用しただけ。

 京真への憤りは自身への失望に変わった。

 もう尾行なんてやめようか。

 そう思って気を抜いた時、京真の姿を見失った。

 透は速度を緩めてあたりを見回す。

 見つからない。

 これでは尾行はできない。

 京真を信じるも何もない。

 帰ろう。

 透はフラストレーションを発散するように走り出した。

 もうバレることなど気にしなくていい。

 全速力でアスファルトを駆けた。

 その時、塀の横から人影が現れた。

 透は勢い乗っていて、止まることができない。

 止むを得ず衝突を避けようとして、体勢を崩した。

 このままでは地面に激突する。


「きゃっ!」


 透は短い悲鳴を上げた。

 ところが、不思議と痛みは無かった。


「大丈夫かよ」


 聞きなれた声。

 筋肉質な長い腕。

 透が目を開けると、そこには京真がいた。

 透は京真に抱きかかえられていたのだ。

 物陰から現れた京真は、迫りくる人影に気付いた。

 そして、その人物が倒れそうになるのをすんでのところで防いだのだ。


「と……、師匠!?」


 京真は驚きの声を上げる。

 突っ込んできた人物が誰なのかまでは気付いていなかったようだ。


「京真ー、叫び声してたけど大丈夫?」


 赤髪の少女もそこに現れた。

 京真が来たのと同じ方向から。

 そこには、趣のある大きな武道場が建っていた。

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