12-2 なんて呼ぶ?

「師匠……?」


 京真が柄にもなく小さな声を漏らす。

 京真は先日の一件を透に許して欲しい一心なのだ。


「うん……。いいよ………」

「本当か師匠!」


 京真は興奮し、顔を近づけて確認する。


「ただし!」


 透は交差する視線が恥ずかしくなって、顔を背けながら言葉を続けた。


「その、『師匠』って呼び方やめて」

「じゃあ何て呼べばいいんだ?後鳥羽か?」


 京真は首を傾げて質問する。

 透は目を閉じ、優しく首を横に振った。


「普通に、名前で、呼んで?」


 透は再び京真に視線を向ける。

 今度は京真が目を逸らした。


「とっ、とお……、透………………さん」

「……………………はい」


 二人は恥ずかしそうに、小さな声で言葉を交わした。

 実に初々しい、見てる方が恥ずかしくなるような会話だった。

 そして、それを見ていた多くの人物は皆、同じように思った。


(中学生かよ!!)


 「私も、呼んで、いい……?」

 「何を……だ?」

 「きょ、京真…………って」

 「……………………好きにしろよ」

 「…………うん」


 そして、沈黙が流れた。

 二人だけでなく、周囲もまた言葉を発さない不思議な状況。

 甘酸っぱい余韻に、皆が居たたまれない空気を感じていた。

 その状況を打破したのは、やはりこの男だった。


「いやー、良かったな兄貴!仲直りできたんだ!」


 ベストカルイスト、筧涼だ。

 京真とも親し気な茶髪の男が、肩を組みながら言葉を発したのだ。

 これによって教室は息を吹き返した。

 そこかしこで雑談が始まり、止まっていた足も動き出した。

 

「兄貴って呼ぶな」

「えー、いいじゃん兄貴で。背も高いしさ」

「それだけは絶対に駄目だ!」


 京真は頑なに兄貴と呼ばれるのを嫌っていた。


「じゃあ俺も京真って呼んでいい?」

「好きにしろよ」

「オッケー。俺の事も普通に涼って呼んでくれよ」

「分かったよ、涼」

「改めてよろしくな京真、透ちゃん、それと……」


 涼は近づいてくる人影に視線を向けた。

 

「麻尋ちゃん」

「うん、よろしくね。涼君」


 二人はにこやかに手を振った。

 そして声には出さないが、互いに協力し合うことを決めた。

 何故なら、そっちの方が面白いから。

 

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