11-3 なに渡す?

「師匠!」


 京真の大きな声が教室に響き渡った。

 その大声と、目の前に差し出された物に透は驚く。

 それはラッピングされた可愛い袋。

 京真には似つかわしくない代物だった。

 何が入っているのかは分からない。

 だが小物ではない。

 それほど厚みも重さもない。


「一昨日はすまなかった……。これはお詫びの品だ、受け取ってくれ!」


 京真は改めて謝罪した。

 お詫びの印。

 誠実な態度。

 そして何よりストレートな言葉。

 観衆は京真の行動にどよめいた。

 京真のとった大胆な行動に盛り上がっただけではない。

 透と京真の関係の進展に気がついたのだ。


 一昨日。

 それはつまり土曜日の事だ。

 金曜日にはまだ険悪だった二人の関係。

 それが何故、土曜日に繋がるのか。

 それは当然、関係の変化に他ならない。

 麻尋ははぐらかしていたが、やはり事実だったのだ。

 二人の関係は、短時間の間に進展を見せている。

 クラスメイト達は、そう確信していた。


 とはいえ、皆が京真の行動を手放しで称賛しているわけではない。

 むしろ否定的な見方をする者もいる。

 (物で釣ろうとするなんて)

 そういった考え方によるものだ。

 実際、お詫びの品というのは難しい。

 怒っている相手が受け取らないかもしれない。

 受け取っても相手が許すとは限らない。

 それどころか物によっては相手を更に怒らせるかもしれない。

 こういった負の側面も考えられるのだ。

 それ故に、お詫びの品選びは慎重を期す必要がある。


 だが、透はチョロかった。

 異性からのプレゼントに舞い上がっていた。

 初めての経験だったのだ。


「こ、今回だけ……、許してあげる……」

「本当か!?ありがとう、師匠!」


 無事にわだかまりは解消した。

 初々しい二人の仲は直ったのだ。

 しかし、ここに一人だけ、京真の行動を懐疑的に思うものがいた。

 軽すぎる男、筧涼である。

 彼は数々の女性にプレゼントを送ってきた。

 その上で、プレゼントをするという行為の難しさを理解している。

 だからこそ涼は疑問に思う。


(おかしい……。


 何故、透ちゃんは中身も確認せずに喜んだ?

 恐らくプレゼントという行為自体に喜んだんだ。


 では何故、京真は透ちゃんがプレゼントを喜ぶと確信していた?

 恐らく何者かからのアドバイスがあったんだ。


 そもそも、京真はプレゼントなんて思い付くタイプには思えない。

 やはり、裏に誰かいる。


 そしてそれは、後鳥羽透をよく知る人物……!)


 涼は二人から視線を外した。

 そして、未だに教室の入り口に立つその女を見る。

 彼女は、皆越麻尋は、笑っていた。





 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る