11-1 なに渡す?

 涼は傍観していた。

 月曜の朝から教室では面白いことが起きている。

 京真が頭を90度下げているのだ。

 維持するのが難しい姿勢ながら少しのブレもない。

 その謝罪姿勢の美しさを涼は眺めていた。

 しかし、涼は疑問に思う。

 何故今日もまた、京真は透に頭を垂れるのか。

 その疑問は涼だけの疑問ではない。

 クラスメイト全員の疑問である。

 金曜の放課後も同じような光景だった。

 頭を下げる京真と下げられる透。

 その間を取り持った麻尋が解決すると豪語していた。

 だが週の初めからこの様子である。

 結局二人の間のわだかまりは解けなかったのか。

 誰もがそう思ったが、涼は違った。


(俺には分かる。これは前回とは違う……。前回の透ちゃんは無視を決め込んでいたが、今回は怒っている。つまり先週のとは別件だ……!)


 図星である。

 金曜日は謝罪ではなく弟子入りの志願だった。

 一方で、今回のは謝罪。

 京真は反省し、謝っているのだ。

 土曜日に透が去った後、京真は麻尋に怒られた。

 状況を理解できていない京真に、麻尋は怒りながらも丁寧に説明した。

 もちろん親友の恋心に言及するような野暮な真似はしない。

 ただ、恋人役の女の子を放っておいた事。

 その上で別の女の子と楽しそうに話していた事。

 そして透の行動に気付かず、すぐに謝罪しなかった事。

 女心が分からない京真に対し、これらを指摘した。

 そして、月曜日の朝一番に謝罪するよう命じたのである。


 だが、これもまた麻尋の策略だった。

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