10-1 怒られる?

 麻尋は怒っていた。

 いつも楽し気な様子の麻尋。

 そんな彼女が珍しく怒っているのだ。

 理由は単純。

 京真が他の女と話をしているから。

 麻尋にとって京真は彼氏でも何でもない。

 強いて言うなら最新の玩具だ。

 だから本来ならば京真が誰と話していようが問題ない。

 しかし、麻尋の親友にとっては違う。

 透にとっては問題なのだ。


 透と京真の間には恋人役になるという条件がある。

 とはいえ、あくまでそれは

 ただの恋愛経験の練習相手である。

 だから京真が誰と話そうが問題ない。

 京真が誰に好意を抱こうが問題ない。

 そんな事は分かっている。

 

 だが、麻尋は知っているのだ。

 透が京真を褒めようとしていた事を。

 透が楽しそうにモニターを眺めていた事を。

 透が嬉しそうに京真の話をしていた事を。


「お前しか考えられない」


 透の弟子になりたいと京真が伝えた時に発した言葉だ。

 この言葉に恥ずかしがりながらも喜んでいた透の気持ちを、麻尋は本人の口から聞いていた。

 自分が誰かに必要とされて嬉しい。

 そう話す透のはにかんだ表情を見て、麻尋は応援を決意した。

 透と麻尋が本物の恋人になるための応援を。


 透はまだ気が付いていない。

 彼女はすでに、恋をしている。

 京真の事を意識してしまっている。

 だからこそ京真の行動は、透にとって問題なのだ。

 京真が自分よりも他の女との会話を優先した。

 京真が自分との会話よりも楽しそうに話をした。

 そんな些細な事に透は嫉妬したのだ。

 ただそれ以上に、透は悲しかった。

 「お前しか考えられない」と言ったのに、タキアンをプレイする女性であれば、京真は誰でも良かったのだと感じたからだ。


 そして透はその場を去った。

 胸の中に沸き上がる、初めての感情に耐えられなくなった。

 一刻も早くここを離れたいと思った。

 そんな彼女を麻尋は止めなかった。

 追う事もしなかった。

 それが彼女の優しさだった。


「あれ?師匠はどこだ?」


 残された麻尋の前に京真が現れた。

 京真は事態が把握できていない様子だった。

 当然、透の気持ちも。


「京真君、ちょっとツラ貸して」


 麻尋は怒っていた。

 

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